球体
アスファルトの上を走る赤いスーパーボールが、身の丈ほどの小石に躓き宙を舞う。反動で小石は向きを変える。小石に睨まれたように僕は感じた。
軌道を変えたスーパーボールは、小刻みなバウンドによって自身の持つ運動エネルギーを消費していく。視界の端にその動きを捉えながらも、役割の終えたそれのことは無視をする。代わりに左手の緑に意識を移す。
緑のスーパーボールを右手に持ち替え、三本の指で支える。人差し指と中指の真ん中辺り、第一と第二関節の間のぷっくりとした部分。そこに溝を作りスーパーボールをあてがい、親指の腹で蓋をする。余った二本を遊ばせておいても邪魔なだけなので、折りたたみ軽く握る。この持ち方が個人的には一番投げやすい。
そんな中途半端な拳を地面をスライドさせるようにして振りかぶる。二の腕と地面を平行に、背中のラインと腕、二つの直線で60°程度の決して鋭いとは言えない鋭角を作る。足は肩幅より少し広めに、左右のスタンスを開く。前後ではない。尻を右方向に突っ張らせ、膝は伸ばす。気持ち悪い格好だと、友達によく言われる投擲フォームが完成した。その格好で小石に再び標準を合わせ、息を吐く。
他愛もない遊びではあるが、心臓がばくばくと緊張を訴えかけてきた。距離にしてわずか、2m。自分の身長のおよそ1.2倍。ターゲットである小石が自分から動くことはない。順当にやれば外さない自信はある。一投目は命中させた。もう一度、と息を吐く。
投げないのかよ、と野次が飛んできた。
すでに一つ投げたことを持ち出し、身を守る。故に返事はしない。特に勝ち負けのルールを明確に定めている訳ではない。2回連続で小石を弾いた奴はまだいない。ただ、どうせならば負けたくはない。
3.2.
1.
小石の5センチ横を通った。次の番の友達が、その後を追って駆けて行く。そんな気持ち悪い投げ方でうまくいくかよ、と大声を張る。
緑のスーパーボールは、その先にいた赤いスーパーボールを弾き、軌道を変えた。アスファルトの道のわずかな傾斜に捕まって速度を上げる。
遠くで白いサイレンの音が鳴り響いた気がした。小石は次のスーパーボールを待っている。ドシリと、構えて四股を踏んだ。