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ビスケット

作者: S

 依存行為など、本質的に必要な物が満たされないと、ついつい他の手軽な快楽に手を出し、さらに際限なく嵌ってしまうことがあります。

 物語の男の子は滑稽ですが、私自身も同じ事をしてしまう時があります。元は、自分への戒めのために書いた物語です。イソップ童話風にしてみました。


 あるところに一つの家族が住んでいました。お父さんとお母さん男の子と女の子の4人家族でした。

 男の子はまだ6歳になったばかりで、女の子の方は4歳になったばかりでした。

 男の子はビスケットが好きでした。朝から晩まで食べても飽きないくらい大好きでした。

 お家には男の子がせがんで買ってもらった沢山のビスケットがありました。居間のテーブルに一箱、台所の戸棚に3箱、廊下に10箱、自分の小さな部屋にもビスケットが入った箱がいくつも置かれてありました。

 妹の方は兄ほどではありませんでしたが、やはり子供らしくビスケットが好きで、お母さんにもらったビスケットが入った箱を自分の小さな部屋に幾つか仕舞っていました。

 そんなある日、お母さんが少し間用事で出かけることになり、その間二人だけでお留守番をすることになりました。

 「いい子でお留守番していてね、危ないから火とかいじっちゃだめよ、それから誰が来ても出ないでね。特にお兄ちゃんなんだからしっかりするのよ。」

 お母さんがそう言うと、

 「はーい。」

と男の子は返事をしました。

 お母さんが行ってしまうと、女の子の方は自分の部屋で寝てしまいました。男の子は「つまんないや」と自分の部屋へ行き、居間のテーブルから持ってきたおやつのビスケットを食べ始めました。

 しかし、しばらく食べていると、男の子は喉に何か変な感じを憶えました。

 「喉が渇いたな。」

 水を飲もうとしましたが、近くにはありませんでした。台所では蛇口に手が届かないので、お母さんがいつも水差しに水を入れて居間のテーブルに置いていてくれるのでした。

 「あそこまで行って、コップに水を汲むのがめんどくさいや。」

 男の子は、喉の渇きを我慢して、また大好きなビスケットを頬張り始めました。

 しかし、ビスケットを食べれば食べるほど喉の渇きはかえって増すばかりでした。それでも、男の子は、喉の渇きの不快感を打ち消すかのように、大好きなビスケットを次から次へと食べ続けました。

 そして、気がついたときには、自分の部屋に置いてあったビスケットも全て食べてしまったようで、ビスケットの空箱だけが沢山積み重なっていました。

 男の子は廊下に出ました。そして、廊下においてあったビスケットの箱を取り、蓋を開けて中身を食べ始めました。ビスケットを食べる手が止まらないうちに、また気がついたときには、廊下のビスケットも全て食べ尽くされてしまっていて、後は空箱だけが積み重なるばかりでした。

 男の子は、台所に行きました。そして、戸棚からビスケットを取り出して食べ始めました。しかし3箱しかないビスケットは瞬く間に食べ尽くされてしまい、もうこの家にはビスケットはなくなってしまったように見えました。

 「ああ、ビスケットが食べたいなぁ、それから喉も渇いた、とても辛いなぁ。でも、ビスケットさえあれば、この辛さもなくなってしまうのに。いや、まてよ妹の部屋にビスケットがあったぞ。」

 男の子はすぐに、妹の部屋へ行き、寝ている妹を起こして、

 「ビスケットを出せ。」

と言いました。

 女の子は、何事かと驚きましたが、まだほとんど手を付けていなかったので、

 「嫌よ、あれは私のビスケットよ。」

と言いました。

 男の子は、それを聞くと、拳を振り上げながら、 

 「何を生意気な。」

と言い、妹を脅し始めました。

 女の子は、力では敵わないと、泣きながらビスケットを差し出しました。

 「これで全てか?」

 「そうよ。」

 「隠してないか。」

 「隠すもんですか。」

 さめざめと泣く妹を尻目に、男の子は妹のビスケットを食べ始めました。そしてまた、瞬く間に全て食べてしまいました。

 「あぁ、無くなってしまった。辛いなぁ。喉も渇いた。ビスケットが食べたいよ。」

 男の子は不満そうに妹の部屋をのそりのそり歩き始めました。

 そして、

 「もう、ビスケットは無いのか。」

と言いました。

 「ないわ。全て食べてしまったじゃないの。」

 「この役立たず。」

 男の子は、こう叫ぶと座り込んで泣いていた妹を突き飛ばしました。布団に倒れ込んだ妹は一層激しく泣き叫びました。泣き叫ぶ妹に構わず、男の子は部屋を出て行ってしまいました。

 「あぁ、喉が渇いた、辛いなぁ。ビスケットが食べたいよ。」

男の子はのそりのそりと家の中を歩き始めました。

 「どこかにまだ残っているはず、一枚でも残っているはず…。」

 そうこうしているうちに、呼び鈴が鳴りました。どうやらお母さんが帰ってきたようで、鍵を開けて入ってきました。

 「ただいま。」

 お母さんは、家の中に入りましたが、泣き声を聞いて驚きました。

 すぐに、お母さんは女の子の部屋に駆けつけました。

 「どうしたの。」

 「お兄ちゃんが、私を突き飛ばしたの。」

 お母さんはすぐに男の子を呼び、訳を聞きました。

 「どうしてこんなことをしたの?」

 しかし、男の子は答えませんでした。

 お母さんがさらに強く尋ねると、

 「ビスケットを出さなかったからだい。」

 と言いました。

 お母さんは、ビスケットのために妹まで泣かせた男の子のお尻をぶちました。

 男の子も泣き声を上げました。

 泣いて泣いて、しばらくすると喉が渇いていたことを思い出した。

 「喉が渇いたよ。」

 お母さんが答えました。

 「テーブルの上にいつも水を用意しておいたでしょう。」

 男の子は泣きはらした顔のまま、居間に行き、テーブルの上の水差しからコップに水を汲んで、それを飲み干しました。

 するとさっきまで喉の渇きは癒やされて、気持ちも落ち着いたようでした。そして、同じく、ビスケットを食べたいという気持ちも落ち着いたようでした。

 それから、男の子は以前ほどビスケットを食べなくなったようでした。

 

 この物語の教訓

 「ビスケットはおいしいけれど、喉が渇いたときには何の役にも立たない、その時は水を飲むべきだ。」

 「本質的に必要な物を他の物で代用できない。代用しようとすると代用した物を大量に浪費する。」

 「本質的に不必要な物は本質的に必要な物まで遠ざける。」

  

 

 

 


 



 説教臭くなってしまいましたが、気楽に読んで頂けたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ビスケットは美味しいのだ。 少年の行動にびっくりだけど置き換えると分かるお話でした。 [気になる点] この後、夕御飯食べられなくなって怒られるね。 [一言] 本質的に必要な物が物語のように…
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