第7章 1話
ここは千代田区永田町にある首相官邸。
「総理、佐野総理! た、大変です! 『栃木ダンジョン』が攻撃されました!」
「どこの誰が攻撃してきたんだ。もちろん返り討ちにしたんだろうな」
「そ、それが、特侵隊、在日米軍ともに全滅との報せが入っております。また、救助に向かわせた隊員を『栃木ダンジョン』から溢れだした『ゴーレム』が襲っているとのことです」
「な、なんだと! 品田防衛大臣をすぐ官邸に呼びなさい。野崎さんは、官房長官はいるのか?」
「野崎官房長官は内閣府におります。すぐにお呼びいたします。品田防衛大臣は連絡を受けて既にこちらに向かっております」
ま、またか……。やっとダンジョンとの取り組み方が朧気ながらも見えてきたところだったというのに、全くままならないものだ。
テレビを点けると早くもワイドショーが中継をしていた。もうバレてるのか………。ヘリコプターからの映像が映し出されており、ダンジョン周辺は例のごとく氷の世界が広がっており、入口から出てきたであろう『ゴーレム』と特侵隊の隊員が戦闘をしているところだった。どうやら多くの『ゴーレム』が銃弾に倒れ、徐々に収束に向かっているように伺えた。
『栃木ダンジョン』で何が起こったんだ。ダンジョンマスターの裏切りか、それともモンスターの反逆か、考えられるのはこの辺りか。ダンジョンとダンジョンマスターが無事ならまたやり直せる。彼が生きていることを切に願う。
「そ、総理、品田です! だ、ダンジョンの件、聞いてますか? ざ、残念ながらダンジョン周辺の隊員は全滅……。ダンジョン内にいる隊員についても不明とのことです。」
急いで来たのだろう。少し息を切らしながら品田防衛大臣が報告してきた。
「まずは、ダンジョン内がどうなっているのか早急に調べるしかあるまい。品田さん、対策本部を官邸に設置しましょう。準備をお願いしてください。あと、わかってるとは思いますが在日米軍のハリス司令官に連絡を」
「か、かしこまりました」
◇◇◇◆◆
在日米軍が駐在している横田基地。現在こちらに司令部を置くトップが司令官のハリスである。ハリスもまた佐野首相と同様にテレビのワイドショーを見ていた。ちなみに、『栃木ダンジョン』へ派遣した部隊からの定期連絡は途絶えている。
「なぜ『栃木ダンジョン』からモンスターが溢れだしたのだ。おい、品田から連絡はないのか?」
「はっ、司令官。日本政府も突然のことに対応している最中なのでしょう」
「お前の意見を聞いているんじゃない。品田から連絡がないならこっちからかけろ! 早く回線を繋げ!」
ハリスが怒鳴り散らしたその時、扉をノックする音が聞こえた。
コンコンコンッ!
「入れ」
「司令官、日本の品田防衛大臣より回線が繋がっております。いかがいたしますか?」
「すぐ繋げろ」
「はっ!」
「ハリス司令官、品田です。『栃木ダンジョン』のことでご連絡いたしました」
「あー、知っている。テレビの情報程度の知識だがな。『栃木ダンジョン』で何が起こってる。うちの部隊も定期連絡が途絶えているのだ」
「ダンジョンの外にいた部隊は例の氷の攻撃を受け全滅。その後、ダンジョンからは『ゴーレム』が出てきましたが、これは先ほど殲滅完了しました。現在、ダンジョンの中を調査中ですが、米軍部隊はダンジョン内でレベルアップ訓練中だったと報告が上がっています」
「そうか。追加部隊を出そう。すぐに向かわせたい。許可は必要か、品田大臣」
「い、いえ。緊急事態です。協力を感謝いたします。現地にいる特侵隊に連絡をしておきましょう」
「わかった。現地には私が直接行こう」
「司令官がですか!? ま、まだ安全は確保がされておりません。危険すぎます!」
「なに、気にするな。変に隠しごとをされてもたまらんからな。じっくりと調査させてもらおうじゃないか」
「は、はぁ」
「新しい情報が入ったらすぐに共有してくれよ。では行ってくるとしよう。じゃあな、品田大臣」
そして、大々的に司令官が直接赴いてのダンジョン調査であったのだが結果は何も判明しなかった。ダンジョン内には誰も居らず、モンスターもダンジョンマスターも誰一人として発見出来なかった。
そして、その日の夜に『栃木ダンジョン』は消滅してなくなったのだった。




