閑話 6
私の名前はエディ。
本名は山田謙太郎。名刺には山田エドワードと勝手に書いているわ。
オネェ歴僅か一ヶ月、生まれたてのレディ。それが私。
最近の悩みは会社の定款に『養鶏業』、『建設業』、『地域産品の販売』と想定していなかった業務がどんどん追加されたことね。はっきりいって変更手続きが面倒なのよ。そういえばレイコから『ペット販売業』も追加しといてと言われたんだったわ。うちの会社そろそろ商社に変更した方がいいわね。
そういえば、高橋さんの家の隣に土地を取得したのよ。最近は亀山に居ることが多いし、何よりダンジョンのみんなとのやりとりが楽しいのよね。別荘のつもりだったけど本格的にこっちで暮らすのもありかもしれないわ。自然豊かで静かな場所で田舎暮らしってのもいいかも。
「エディ、早くボートを出しなさい。何秒待たせるのかしら?」
こ、この子も特殊よねぇ。秒単位はあまり待つとかで使わないのよ。ティアちゃんって自分の欲望に凄く忠実。やりたいことを見つけるとすべてを放り出して、まっしぐらになるの。少しは我慢することをを覚えた方が大人のレディに一歩近づくんじゃないかなって思うの。
「ティアちゃん、ちょっと待ってぇ。餌はどうするの?ワームやルアーは初心者には難しいわよ」
「何を言ってるのエディ。釣りの基本は現地調達に決まってるわ。早くしないとヌシが逃げるかしら」
「もう! わかったわよ」
ボートが繋がれたロープを一隻分だけ外し、電動モーターを取り付ける。いちいちオールで漕ぐなんてレディの釣りではないの。
「エディ、釣れるポイントはどこ?」
「そうねぇ。高橋さん情報によると、昔使っていた橋が今はもう水没していて湖の中にあるらしいの。そこが魚も多く住み着いていて大型のサイズも上がっているらしいわ。ほら、あの水が流れ込んでいるところよ」
「なかなかいい雰囲気ね。じゃあ始めようかしら」
「ちょっ、ティアちゃん、針だけ落としても釣れるわけないじゃない」
って思ってたけど、これは驚いたわ。
ティアちゃんがロッドを細かく動かすと黒い針がまるで水面に落ちて苦しみもがく羽虫のように動き始めたの。そして、いとも容易く一匹目を釣り上げた。
「エディ、この魚は何? 美味しいのかしら?」
「あら、かわいいサイズのブルーギルね。そのサイズなら逃がしてあげたら?」
「確かに食べるところが少なそうね。次を狙おうかしら」
何を思ったのか、ティアちゃんは針についたブルーギルごとぶん投げた。
「あぁぁーっ!! ブルーギルちゃーん!!!」
水面にペシッと体を打ちつけられ弱りきったブルーギルが辛うじて泳ぎだす。あ、あれを次の餌にするのね!?
しかしながら考えてもらいたい。雑食で攻撃性の強いブラックバスが目の前を弱りきった姿で泳ぐブルーギルを見逃すだろうか。
答えは否だ。捕食しようと動き出しても糸に引っ張られ逃げ遅れる始末。ブラックバスは思っただろう。こ、こいつチョロー! お腹の空いたブラックバスにとって、弱りきった生き餌はかなり魅力的に映っているに違いない。残念ながらブルーギルはあっさりと丸呑みにされるのだった。
「フィッッッシュ!!!! 来たわ。大物よ!エディ、すぐに網の用意をしなさい」
えぇぇぇぇーーーーー!!!!
釣れちゃってるぅぅぅぅぅ!!!!
「あ、網は、あ、あった。だ、大丈夫よ」
な、何なのー! この子、いきなり70センチオーバーのブラックバスを釣り上げちゃったわ。
「あーっ!またしてもブルーギルちゃーん!!!」
ブラックバスから針を外したと思ったら、あっという間にブルーギルが投げられていた。
「フィッッッシュ!!!!」
その後、この異質なバスフィッシング、いやこれはもう狩猟ね。合計で50匹の大型サイズを釣り上げていた。
どうやって食べるのか気になるところだけどブラックバスって美味しいの?あまり食べられてる話を聞かないんだけど大丈夫?
「ティアちゃん、このブラックバスどうやって食べるの?」
「あら? エディも食べたいの? 手伝ってもらったから1匹あげるわよ」
とりあえず、シンプルに塩焼にしていただくらしい。せっかくだから1匹いただいてみた。
「ちょっと独特な匂いが残るけど、悪くないわね。でもやっぱり魚は海の方が美味しいわ」
「そうなのね。エディ、私は海産物を所望するわ。お金はレイコが払うかしら」
「また、怒られるわよ。しょうがないわね。千葉の貝尽くしに新鮮な魚を用意しようじゃない。みんなで海鮮バーベキューをしましょう。私が全部奢るわ」
「エディ、私はフグも食べてみたいわ。内臓の方よ」
やっぱり楽しい。明日もみんなのために頑張らないとね。
ちなみにフグの内臓は売ってる場所を知らないわ。




