第6章 12話
車が千葉県の亀山に戻るとエディとレイコさんがお出迎えしてくれた。たまたま納入関係の打ち合わせをしていたらしい。高橋さんの駐車場には建築資材が大量に納品されていた。
「おかえりなさいタカシさん。大丈夫だったんですか?」
心配そうに話し掛けてきたレイコさんだったがティアとレヴィが車から降りてくると少しホッとしたようだった。
「うん、大丈夫だよ。詳細はあとでね」
エディがいるからあまり深い話はしない方がいいね。
「あらぁ、タカシ君が外出なんて珍しいじゃない。今度一緒にボート乗りましょうよ。ここは高橋さんのボートが乗り放題じゃない。湖畔で二人きり逃げられない環境とかなんだかとてもいいわぁ!」
襲うつもりがだだ漏れじゃないか。可能であるならコウジさんを紹介したいのだが彼はダンジョンマスターだから難しいだろう。コウジさんにも怒られそうだけど。
「今日も元気そうだねエディ。僕は忙しいから女性陣の息抜きにでも付き合ってあげてよ」
「まぁ、女子会なのね。素敵だわぁ!」
エディが参加している時点で間違いなく女子会じゃなくなるからね。傍から見たらおじさんと援助交際の女の子とかがいいところだろう。
「亀山はいろんな魚も釣れるんでしょ。ティアとかはまりそうじゃないかな」
「その魚は美味しいのかしら? 脂は乗ってるのかしら?」
いろいろなことに興味があるように見えて根底には食への探求がある。ブレないね。
「うーん。あんまり食べられてる魚はいないんじゃない。確かいるのは、へら鮒、鯉、ブラックバスにブルーギルぐらいよ」
「まぁいいわ。エディ、ロッドとリールを人数分用意してちょうだい。リールはスピニングリールでラインはナイロン製の6ポンドでいいわ」
ティア先生、その釣具情報はいったいどこから入手してるんだい?
「ちょ、ちょっと、ティアちゃん前のめりー! 結構欲しがるわね。というか、高橋さんのお店に釣竿なんていっぱいあるんじゃない?」
「なるほど、そういえばそうね。エディすぐ行くわよ。ついてきなさい」
「ちょ、ティアちゃんグイグイくるー。た、タカシ君ま、またねー」
高橋家がいろいろ身ぐるみ剥がされていってるけど、死んでいないだけきっとマシだろう。長期間の洗脳による変な依存性とかないといいね。最悪はきつめの治癒で解決出来るよね。うん。大丈夫だ。
「うん。ティアのことよろしく頼むよ」
さて、僕はダンジョンに戻ろうか。養鶏場の様子を確認して、リナちゃん達にマヒトくんの報告もしないといけないね。
「レイコさん、養鶏場はどのくらい進んでるかな?」
「今日のところは基礎までですね。生コン流しこんでいるので固まってから次の工程に進みます」
意外に本格的な養鶏場が出来てしまいそうだ。エディとのコンビは今のところ問題なく機能しているようで頼もしい。このまま頑張ってもらおう。完成が楽しみだ。
「そっかぁ。完成が楽しみだね。ヨルムンガンドちゃんは静かにしてた?」
「うーん。最初はゴブリン達と材料のペンキ塗りとか頑張ってましたけど、やっぱりすぐ飽きちゃうじゃないですか」
「だよねー。大丈夫だった?」
「ちょうど遊びに来ていた『グラスウルフ』と一緒に三階層の草原フィールドで戦闘訓練をしていたみたいです」
飽きたら戦闘訓練とか五歳児の遊びとは思えないな。君はいったいどこの戦闘民族なのかな。
「それはよかったね」
「はい。『グラスウルフ』も楽しそうにしてたのでよかったです。途中から『ワイバーン』も参加して駆け回ったり、空を飛んだりで激しく遊んでましたね。今は疲れて寝ちゃってます」
ヨルムンガンドちゃんが成長して五年後とかいったい誰が遊び相手になってくれるかな。今みたいにすぐには寝てくれないだろうし大変そうだ。まぁ単純に同じ年くらいの友達でも出来ればいいのかもね。
「ピースケは居住区かな?」
「そうですね。自分の部屋か会議室じゃないですかね」
「あっ、お兄さま。出来たらお風呂に入りたいのですが」
「了解。長野県白骨温泉の湯を熱めで入れておくよ」
「ありがとうございます」
「あっ、じゃあ私も一緒に入ろっかな」
僕も一緒に入りたい。ん? スキル『透明化』で。い、いや一分間程度しか息は止められない。ダメだ、いったん落ち着け。冷静になるんだ。チャンスはいずれくる。じっくり計画を練ってから出直そう。




