第6章 11話
『ゴーレム』達が引き付けてくれたおかげでスムーズに下山することができた。何気に『透明化』スキルが役立っている。ここまで何人かの隊員とすれ違っているがすべてやり過ごしている。視覚から消えるというのは普段から視覚情報に頼っている人間にはよっぽどのことがない限り見つからないということがわかった。
透明になるというのはチートな能力だろう。だからこそ気配漏れや息止め制限というのがついてくる。ある意味バランスをとろうとしているのかもしれないが、それでバレやすいのは野生動物さん達であって平和な人類ではたいしたデメリットにはならなそうだ。
駐車場に戻り高橋さんの車に乗り込みダンジョン方向に目をやると、けたたましい銃声が鳴り響くとともに、『ゴーレム』達の道連れとなったであろう隊員の叫び声が木霊していた。
「ティアとレヴィは………」
「何ですか? お兄さま」
僕がいなくなったら彼女達はどうするのだろうか? いやいや、こんなこと聞くべきではないか。少し『ゴーレム』の感情に心が引っ張られたかな。
「いや、何でもない。さて帰ろうか『千葉ダンジョン』へ」
「えぇ、タカシ様。帰りのおやつは『落花生パイ』をいただけるかしら」
「了解。一緒にお茶も出しておくよ。じゃあ出発しよう」
◇◇◇◆◆
帰り道は渋滞もなく東北自動車道をスムーズに進んでいった。時間は13時過ぎ。少し遅くなったけど途中の羽生パーキングエリアに寄ってお昼ご飯をとることにした。
「ティア、レヴィ、ちゃんと帽子を深くかぶってね。サングラスもだよ」
「大丈夫ですわ。早く食べにいきましょう!」
お小遣いをもらったティア先生が車から降りるとダッシュしていった。だ、大丈夫かな。ものすごい前のめりだ。
上りの羽生パーキングエリアでは江戸時代をイメージした建物の外観や食事を提供しており人気のスポットらしい。
レヴィとゆっくり歩いていくと焼き鳥屋の前でティア先生が早速注文していた。
「そこの店主、焼き鳥1ダースをタレで貰えるかしら」
「おぉ、おう。お嬢ちゃんお土産かい?」
「いいえ、チェイサーよ。早くしてね」
や、焼き鳥ってチェイサーになるの!? 焼き鳥をチェイサーに何を食べる気なんだ。
「おやじ、『二本うどん』を10人前よ。急ぎなさい」
「お、お嬢ちゃんは、フードファイターかい?」
「いいえ。私は食の探求者」
「なんかよくわかんねーけど、急いで作ろうじゃねぇか! お嬢ちゃん、残すなよ!」
「残す? 愚問ね。丼に汁の一滴も残さないわ」
ティア先生が狙っていた食事は『二本うどん』だったようだ。これはどんぶり鉢にたった二本だが、ものすごい太さのうどんが入った人気のメニューだ。何故知っている!?
「お兄さま、私はあの軍鶏鍋が食べてみたいです」
「そうだね。じゃあ僕も軍鶏鍋にしようかな」
隣ではうどんを温泉卵に絡めてじゅるりと豪快に啜っては焼き鳥を平らげていくティア先生に人だかりが出来ていた。若手のフードファイターあたりと勘違いされているような気がする。あんまり目立たないでもらいたいんだけどな。
「お兄さま、料理が出来たようですよ。取りにいきましょう」
レヴィに手を引かれ軍鶏鍋定食を取りにいくと軍鶏鍋屋のおかみさんが話し掛けてきた。
「はい。お待ちどうさん。お兄さん達はあの女の子の連れなんだろう? よかったらあの子にこの『お好みタイ焼き』もあげてやってよ。食べっぷりが気持ち良くていいね」
「いいんですか? これ20個もあるじゃないですか」
「あの感じじゃまだ足りないんじゃないのかい?」
ティア先生を見ると全てを食べ終わり周りから送られた歓声に手を上げて応えていた。もう目立つなというのが無理だな。
「ありがとうございます。きっと喜びます」
ティア先生に『お好みタイ焼き』を軍鶏鍋屋のおかみさんからもらったことを伝えると、走っておかみさんの所へ行きお礼とハグをしていた。礼儀正しい水竜である。よくわからないけど、おかみさんが用意した色紙に首を傾げながらサインを平仮名で『てぃあ』と書いていた。サインも書ける水竜である。
こうして僕たちは羽生パーキングエリアをみなさんに手を振られながら後にした。よくわからないけどティア先生には人を巻き込みながら強引に惹き付けるオーラのようなものがあるのかもしれない。アイドルとかやったら大成しそうでこわい。




