第6章 10話
念のためマヒトくんをてんとう虫さんで操り情報の確認をしていった。特に隠していることはなかったが、日本政府に流していた情報や、まさかの三日後に見つかって攻略されてしまったことなどがわかった。これは今後開通していくマスターのためにも何かしら手を打ちたい。
意外だったのは他ダンジョンの場所や魔法についての情報を伝えていなかったこと。日本政府との交渉を始めたばかりだったのがタイミング的によかったというべきだろう。どうやら交渉のカードに利用しようとしていたようだ。
「それで『ゴーレム』達は本当にいいのかな?」
確認のためもう一度聞いてみた。『ゴーレム』とちゃんと会話出来るのは今のところティア先生だけなのだ。
「そうですね。意思は固いようです。『千葉ダンジョン』で受け入れるとは伝えているのですが、ダンジョンを出て自ら消滅する道を選ぶそうです」
彼らにとってのマスターは僕ではない。『栃木ダンジョン』のために召喚されたモンスターだ。マスターも案内人もいないなら消滅する道を選ぶというのか。悲しすぎるがダンジョンモンスターの生き方を垣間見た気がする。
ちなみに、案内人のチャオ太郎だが、マヒトくんか亡くなった後、時間を置かずに光りのエフェクトとともに消えてしまった。ダンジョン協会に戻れたのか、それとも消滅してしまったのかわからない。周辺には、なんとなく餃子の匂いが漂っている気がした。
今夜の夕食は『ホワイティ餃子』だな………いや、せっかく宇都宮に遠征したんだ。ここは『メンメン』か『まさじ』の餃子を楽しもうか。今回大活躍だったティア先生も喜ぶはずだ。
「タカシ様ー。こっちです! コウモリさん発見ですわ」
入口付近にいた冬眠中のコウモリさんをティア先生が無事発見した。この遠征はティア先生が絶好調だ。ミラクルな活躍といっていい。お小遣いの値上げ確定である。
とりあえず、新スキルを試しがてらダンジョンの外に出てみる。右にティア先生、左にレヴィと手を繋いでいる。外は救助のヘリが飛んでいて凍りついた隊員を回収しているようだった。ここに『ゴーレム』さんが大量に出ていって大丈夫なのだろうか?ちょっとダメな気がする。こ、これはいったん戻ろう。
「お兄さま、どうしましょう。出るなら早めに出た方が良さそうに見えましたが」
「そうだね。きっとある程度救助活動に目処がたったら戦闘機とか来るだろうしね。ただ、この状況で『ゴーレム』達が大量に出ていったら目もあてられないというか」
「タカシ様の闇の門でどのくらい『ゴーレム』入りますかしら?」
「えー。コウモリさんいるし、入っても10体ぐらいかなぁ」
「それはちょっと現実的ではなさそうですわね」
ティア先生はいったん僕の闇の門に収納してからどこか目立たないところで出してあげればとか考えたのだろう。
「お兄さまならダンジョン出てすぐに水弾で地中を掘削していき『ゴーレム』達が通れるトンネルとか作れそうじゃないですか?」
何を言ってるのかなレヴィはまったく。そんなの、あれっ?なんか出来そうな気がする。
「ティア、『ゴーレム』達に外の状況とレヴィの案を伝えてみてくれない?」
「かしこまりましたタカシ様」
ティア先生と『ゴーレム』達がわちゃわちゃと身ぶり手振りを使って話をしている。あれで通じているようだから不思議だ。何か揉めてるようにも見えるんだけど大丈夫かな? あっ、ティア先生が慌てて戻ってきた。
「タカシ様ー。大変です! 『ゴーレム』達が自分たちが特侵隊を引き付けるからその隙にダンジョンから出てくださいって!」
「な、なんでそんな話になったの?」
「『ゴーレム』達は魔素不足で消滅するくらいなら『栃木ダンジョン』に攻めてきた人類に、何度も殺られた人類に一矢報いてから散りたいというのです」
「なるほど。これもダンジョンモンスターの考えなのかな……。いや、違うか。これは決心した『ゴーレム』の想いだね。うん。『ゴーレム』の気持ちを尊重しよう。ティア、『ゴーレム』達にお願いしてきてくれるかな。あと、ありがとうと伝えて欲しい」
「はい。かしこまりました」
そうして、僕たちは『ゴーレム』達がダンジョンの外で暴れているなか、スキル『透明化』を使いこっそりと無事に脱出したのだった。『ゴーレム』さん、ありがとう。そしてさようなら。




