第6章 8話
てんとう虫さんの説明した内容はこうだった。会議室でモニターを見ていたのは、おじさんとマヒトくんにチャオ太郎の三名。僕たちが居住区に降りようとした時にマヒトくんはチャオ太郎の手を取って扉を開け出ていった。慌てて追い掛け扉の外に出たら僕たちとバッタリ鉢合わせと。その間数秒程度。一体どこに消えたのやら見当もつかないらしい。
「扉を開けて出たところで僕らに見つからずに二人が消えたと。そして、ティアの感じた餃子の匂い。犯人は上層階にいる!」
「お兄さま、そうなのでしょうけど理由が解りませんね」
「ティアは消える魔法とか聞いたことある?」
「ないですわ。可能性があるならスキルではないでしょうか」
透明化もしくは気配を限りなく消すようなスキルが考えられるのかな。もしスキルならどうやって習得したのか気になるね。マヒトくんに会う楽しみがまた一つ増えたよ。
「でももしもそんなスキルがあるならこの階層にも潜んでいる可能性があるね」
しょうがない。階層ごと潰していくか。熱湯をイメージした水弾を入口に向かって放ち、ティアが凍結した氷を溶かしていく。
「二人とも階段の方に避難しておいて」
二人が避難したのを確認して僕は魔法を放った。あっ、もちろん、てんとう虫さんもおじさんから回収済みです。
なるべく死なないように調節して稲妻を居住区全域に落とした。結果としては、おじさんの体がビクンっと跳ね上がっただけでこのフロアには誰もいないようだった。マヒトくんもダンジョンから出れる訳ではない。次の階層を探すとするか。
「上の階は『ゴーレム』がまた増えていそうですね」
レヴィの言う通り隊員のレベル上げ要員としてかなりの数の『ゴーレム』が召喚されてるっぽい。『山梨ダンジョン』の二の舞になるからちゃんと処理していかないとならない。勝手に連れて行くわけにもいかないしね。
「『ゴーレム』と意志の疎通がとれないかな?」
「できるんじゃないかしら。なんとなく気持ちは通じ合うと思うわ」
うん。ティア先生なら出来そうな気がするよ。僕もなんとなく『ゴーレム』から悲しい気持ちが伝わってたしね。
「じゃあ『ゴーレム』とじっくり話をしてみようかね」
一応、上がってきた階段はティア先生に再度氷結しておいてもらった。では、鬼ごっこの再開といきましょうか。
「お兄さま。あっ、あれは?」
「何あれ? すごい『ゴーレム』が集まってる」
壁を覆うように『ゴーレム』が一ヶ所に集中して集まっていた。こ、これは合体か!?
「レヴィ、こ、これは合体するのかしら」
「お姉さま。あまり恥ずかしいこと言わないでくださいね。『ゴーレム』が合体するわけないじゃないですか」
そ、そうなんだ。ちょっとびっくりしたよ。
「ティア、餃子の匂いはどうかな? さすがにこれだけ広いと無理だと思うけど」
「匂いですか? わかりますよ。あっちですわ」
ティア先生が指差した方向は正に『ゴーレム』密集地帯だった。さすが食の探求者。というか、匂いわかるんだね。
「よし、じゃあ、あの『ゴーレム』密集地帯に向かおうか。さっきみたいに急に魔法が飛んでくるかも知れないから注意しよう」
近づくにつれて『ゴーレム』の数が半端なく増えていく。もはや『ゴーレム』の山だな。何が起こってるんだろう。こちらには見向きもしないで集まっていく。
さっきとは何だか雰囲気が違う。感情はそう。さみしい。見捨てないで。といったところか。
「なんだか『ゴーレム』達が可哀想ですね」
「うん。『ゴーレム』にもちゃんと意思があるんだね」
そして、数百の『ゴーレム』達に囲まれるようにして嘆いているマヒトくんを見つけた。
「…………く、来るな! 邪魔するなよ! 僕は逃げるんだ。お前らの相手をしてる暇なんてないんだ!」
稲妻!稲妻!稲妻!稲妻!稲妻!稲妻!
マヒトくんが近寄る『ゴーレム』を吹き飛ばしている。あー、もう見てられないね。
土棘!
「っぐぁぁぁぁ! うぁぁぁぁぁ!! お前らのせいだぁぁ! は、早く攻撃しろぉぉ!」
しかし『ゴーレム』は動かない。
それを見たマヒトくんは顔を歪め、おそらくスキルを発動させて目の前から消えた。しかし、足からの血痕と『沼地フィールド』では彼がどこにいるのかは一目瞭然だった。
僕は彼がいるであろう位置へ魔法を放つ。
氷結!
下半身を凍らせると、マヒトくんは観念してスキルを解き下を向いたままの姿を現した。




