第6章 4話
車はアクアラインを越えて首都高に入り、東北自動車道方向へと進んでいく。降りる予定の宇都宮インターまではまだ二時間以上はかかる。
後部座席でおとなしく『落花せんべい』をポリポリ食べていたティア先生が感心したように話しかけてきた。
「高橋さんの車は喋るのですね。これが科学の力なのかしら」
レヴィも気になっていたようで視線を感じる。美少女二人に見つめられるのは悪くない。もっと尊敬を集めたい。
「これはカーナビといってね、目的地を登録するとルート案内してくれる便利な機械なんだよ。喋って教えてくれるのは運転手が余所見をしないようにとか車線の変更を事前に伝えてくれるためかな」
「親切な設計なんですね。お兄さまのことだから、てんとう虫さんで車を操っているのかと思いました」
いやいや、それ普通に無理だし怖いから。みんなが感じてる僕のてんとう虫さんへの指示が何でもありになってきているな。
でも期待に応えてくれるてんとう虫さんには感謝しかない。前にご褒美で欲しいものがないか聞いたことがあったけど、菜の花さんに付くアブラムシが好物らしくコンビで活動させてもらえればお互いにありがたいとのこと。今回も闇の門に菜の花さんとのコンビで待機してもらっている。やはりうちのダンジョンの最強コンビだ。
「タカシ様が『栃木ダンジョン』と日本政府が組んでると思われるのは何故ですか?」
「まだはっきりとした確証がある訳じゃないんだけど、開通しているダンジョンは現時点で千葉と静岡と栃木に香川の四つでしょ。静岡は先日行ったばっかだから違う。そうすると栃木と香川の二択なんだよね」
「な、なるほど。さすがですわ」
「それにね、今思えばマヒトくんはティア達がダンジョンの外で暴れたことを知っていたんだよね。その後のコウジさんの話がかなり決定的でダンジョンの封鎖やミサイルの話とかダンジョンから出られないマスターが普通知ることができない情報を持っていたんだ」
するとレヴィが気になったことを聞いてきた。
「うちのエディさんみたいな協力者が『栃木ダンジョン』にもいるというのは考えられませんか?」
「うん。その場合も考えてみたけどコウジさんを仲間に誘う意味がわからないし、わざわざ日本政府と組むという嘘をつくことは理解出来ない。まぁ、残念だけど関わりがあることは間違いないかな。何かしら弱味を握られているというなら助けてあげたいけどね」
「黒だとして、『栃木ダンジョン』をどのように攻めましょう?」
「ゴーレムの特徴は高い耐久性と攻撃力、弱点は遅いスピードだったよね」
「はい。あとは細かい動きは苦手としていますのでわかりやすく数でカバーしてくるかと」
「日本政府と組んでいるなら特侵隊もいるし、ポイントもかなり貯めているはず。大量のゴーレムを想定して動こう」
車は宇都宮インターを出て古賀志山に向かって進んでいく。まもなく『栃木ダンジョン』に到着する。
古賀志山近辺に近づくと予想通り特侵隊の姿とバリケードが目立つ。間違いない『栃木ダンジョン』はここにある。
僕は途中にあった公園の駐車場に車を駐めて古賀志山を眺めた。どの辺りにあるのかなぁ。
「タカシ様、とりあえずぶっぱなしますか?それとも水竜になります?」
何ですかその二択は? ティア先生のやる気が凶暴だ。
「いや、なるべく見つからないように向かうよ。人の多い方に向かえばダンジョンがあるはず。場所を見つけたら入口で絶対零度を僕が放つよ。応援はなるべく呼ばれたくないからね」
久々の『賢者の杖』を握りしめ身体強化で身体能力を上げると一気に山を駆け登る。ティア先生とレヴィもすぐについてくる。彼女らの方が基礎スピードが高いので、フライング気味にスタートをきっても既にピタッと後ろについている。くやしい。
いくつかのバリケードを越えるとやはりバレたようで複数の足音が聞こえてきたので魔法を放っておく。
土棘!土棘!
「ぐぅあぁぁぁぁ!!!!」
僕たちの動きが速すぎるためサブマシンガンも狙いを定められないようだ。
足音が多い方に向かって方向を修正しながら走り抜けていくと緑色の大きなテントが見えてきた。
見つけた。
ティア先生とレヴィに合図を送ると僕は氷属性中級魔法を放った。
絶対零度!
マイナス273.15℃の世界がダンジョンを中心に広がっていく。すべての生物がその動きを止めて固まっていった。




