第6章 1話
「ハロー、タカシ君また来ちゃった」
最近、エディがよく来ると思ったら本当に亀山に引っ越してきたようだ。今の住まいは賃貸らしいが、ボート小屋の近くの土地をすでに購入済みで別荘を建てるつもりらしい。
ダンジョン入場料でかなり儲けているからね。今のところ一人あたり200万円とか信じられない額になっている。「もっと上がるわ!」とエディは強気だ。エディ以外のツアコンが得る入場料はもちろん『千葉ダンジョン』の資産としてすでに数十億というお金をレイコさんに管理してもらっている。
『千葉ダンジョン』へ来る訪日観光客も順調に数を増やしており既に三千人強の方がてんとう虫さんと入れ替わり亡くなっている。帰りの飛行機の中で亡くなるように偽装したり、北海道や沖縄など遠方のツアー二日目で亡くなったりと様々だ。遠方からダンジョンに戻ってくるてんとう虫さんが大変だけど頑張ってくれている。
エディからの情報によると、ツアー客の全員が亡くなっているためニュースにもかなり取り上げられたり、各国と深刻な外交問題にも発展しているが確たる証拠も出てこないし理由もはっきりしないため現状は保留状態らしい。ツアー客からも事前に「このツアーで亡くなった場合、自己責任である」旨の念書に署名いただくためツアー会社は訴えられることはない。
死因が心臓の麻痺という解剖結果から『千葉ダンジョン』の事件が思い浮かべられるが、ドラゴン騒ぎから『千葉ダンジョン』は封鎖されたまま沈黙を保っている。おそらくダンジョンが関係していることは間違いなさそうだが、ツアー内容もバラバラなため絞りこむことが出来ずにいるといったところだ。
「ツアー客の中にジャーナリストや軍属の人が紛れ込んでくると思うけど、どちらにしろ亡くなることになるから問題ないよね」
「えぇ。タカシ君の指示通りバスはカーテンを閉めきってどこに向かっているかわからなくしてるし、電子機器の類いはすべてバスに乗車する前に預かっているわ」
「まぁ万が一持ち込みされてもダンジョン内は電波が届かないし、亡くなった後にてんとう虫さんが記憶を探れば問題ない。それにしても不思議なんだけど、こんなに死んでるのにツアー客減らないんだね」
「タカシ君、逆よ。問い合わせは増えまくり。このツアーは間違いなくダンジョンに行っていると信憑性が高まっているの」
「それだけ人類にダンジョンは魅惑的なんだね。帰還率0%になのにそれでも来るんだから」
「そうそう。レイコに頼まれていた『養鶏用のニワトリ』二万羽だけど来週には届くわよ」
「あー、そうしたらレイコさんを呼んでくるよ。ちょっと待ってて。お金も支払うから」
「えぇ。了解よ。まさかうちの会社の定款に養鶏業が追加されるとは思わなかったわ」
◇◇◇◆◆
レイコさんを呼びに居住区の階層に行くとティアとレイコさんが話をしていた。ちょうどいいと思って声を掛けようとしたら、いきなりティアが土下座し始めた。
「レイコ、お願い。私、ピースケ様が食べていた『ホワイティ餃子』がどうしても食べたいの!アツアツでパリパリのジュワジュワが欲しいのよ!」
「ピースケさんからポイントで出してもらったら焼きたてが食べられるんじゃないですか?」
「何故だかキャットフード代が思っていた以上に嵩んでしまってポイントはもう来月分も前借りしちゃってるのよ。お願い。その靴をキレイに舐めればいいのかしら?」
「いや、靴は舐めなくていいですけどタカシさんに聞いてみますね」
「じゃ、じゃあ、レヴィが食べてみたいと言ってたことにしてちょうだい」
「レヴィちゃんが? あっ、タカシさん!」
こちらを見たティア先生がレイコさんの足にしがみついてフルフルと震えている。いや、何もしないよ。
「ティア。何か言うことは?」
「ご、ごめんなさい」
「次にまた困らせるようなことしたらポイントもお小遣いもしばらく止めるからね」
わかりやすく絶望の表情を浮かべるティア先生が少し可哀想に思えてしまう。いや、明らかにティア先生が悪いんだからね!
でも最近はグラスウルフのレベル上げとか頑張ってるし。今はお金にも余裕がある。ポイント集めも順調。甘いかも知れないけど今度お小遣いの改善をしようかな。身内にはあまあまでもいいんじゃないかなと思う。
「今夜の夕食は『ホワイティ餃子』と『なりたこラーメン』のセットにしようか。ティアが言うから食べたくなっちゃったよ」
「タ、タカジざまぁー」
鼻水だらけの顔のティア先生が抱きついてきた。ダメな子ほどかわいいのかもしれない。
「レイコさん。エディが『養鶏用のニワトリ』が来週には届くって。先に支払い済ませといて。ゴブリン達はニワトリの面倒見るの大丈夫かな?」
「了解です。思ったより早かったですね。ゴブリン達には死ぬ気で面倒見させるから大丈夫ですよ」
か、身体で覚えさせる感じに聞こえるね。ゴブリン死ぬなよ。




