第5章 10話
はやる気持ちを抑え切れないのか、山田エドワードは予定より少し早くボート小屋に到着していた。
「まだ時間には少し早いか。きっとあの先にダンジョンがあるんだよな……。」
ボート小屋の駐車場の奥をカーブするように広い道が整備されていて長い一本道が続いているのが見える。すると後ろから声を掛けられた。
「よくいらっしゃいましたエディ」
「あぁ、高橋さん。すみません。少し早く着いちゃいましたね」
「いえいえ。問題ないですよ。どうです。早速、ダンジョン見てみませんか?」
「は、はい。是非とも」
高橋さんの運転でそのまま一本道を進んでいくと五分とかからずダンジョンの入口が見えてきた。
「これが本物のダンジョンですか」
一見するとただの洞窟のようにしか見えない。今までもそれっぽい洞窟を見つけては案内してきた。正直これならもっとそれっぽいのはいくらでもあった気がする。
「中に入ってみたらわかりますよ。さぁ行きましょう」
顔に出ていただろうか。高橋さんから中へと勧められるが、ダンジョンに入るのはさすがに緊張する。念のために持ってきたスタンガンを持つ手が震えている。やはり理解の範疇に無いものというのは怖いのだろうな。
「ダンジョンの入口は薄暗いのでこのライトをお使いください」
ダンジョンの中はそこまで広さはなく奥に続く通路がどこまでも続いているような気がしてなんとも恐ろしかった。一度歩み始めたら戻っては来れないような不気味さがある。
見た目でここがただの洞窟ではないと理解できてしまう。自然に出来た風合いではなく、明らかに人工的な人の意思を感じさせる洞窟といったらいいだろうか。
「……クスクスッ」
「ヒッ! な、何かいますよ!」
「大丈夫です。上の方をライトで照らしてみてください」
そこには、羽根の生えた小人。これが妖精なのか。笑いながら僕たちのまわりを飛び回っている。捕まえようと手を伸ばしてみるが逃げられてしまう。あれっ、これはとても愛らしい。確かに入口付近に関しては危険な感じはしないのかもしれないな。
「可愛らしいでしょうエディ」
「そうですね。これはダンジョンのイメージも変わりますね」
「そう思っていただけるなら今後の話もスムーズにいきますかね。エディ、一人紹介したい方がいます」
「この間の子供たちではなさそうですね。どなたでしょうか?」
「マスターお願いします」
その言葉とほぼ同時にその男は私の前に姿を現した。間違いなく入口付近には誰もいなかったはず。突然現れた男はゆっくりと頭を下げていた。
「ご紹介いたします。このダンジョンのマスターであるタカシ様です」
「だ、ダンジョンマスター!? 高橋さんこれはいったい」
「私もエディと呼んでいいでしょうか?私から説明しましょう」
「は、はい。構いません。お願いします」
「エディあなたにはこれから生き方を選択していただきます。一つはそちらの高橋さんと同様に精神を乗っ取られながら操られて生きる。二つ目は、私たちと組んでこのダンジョンのために生きていく」
「いや、急すぎます。あー、一つ目は無いです。ってか高橋さん操られてるのぉ!マジか。あれっ、選択肢一つしかないじゃん!」
「おー、協力いただけると」
「ち、ちなみに、拒否した場合はどうなります?」
「高橋さんのようになっていただきます」
「協力します!」
「ちなみに、今電源を入れようとしたスタンガンは私には効きませんし、あなたの動きはダンジョンの外であっても見張りをつけて監視できます。さらに、もしも妙な動きをした場合すぐさま殺せるということは伝えておきましょう」
「是非、協力させてください」
エディはスタンガンを落として泣きそうな目をしながらこっちを見ていた。大丈夫。そんなに無茶は言わない予定だから、たぶん。
妖精たちが集まってスタンガンを持ち上げている。可愛らしいね…………あっ!
バチバチバチッ!!
「あんっ……」
「クスクスッ。クスクスクスッ」
スタンガンは見事エディのおしりに炸裂スパークしてしまった。ゴメンね。でもそんな危ないの持ってくる方が悪いんじゃないかな。
治癒!
「はぅーぁぁぁぁ」
しまった。また力を入れすぎてしまった……。男の人にはホント使いたくないわー。もっと細かい調整をしないといけないね。




