第5章 6話
車は館山自動車道から東関東自動車道に入り成田空港へと向かっていく。
なぜか私の胸は車に乗っている間に急激な成長期が訪れたようでAカップからFカップにジャンプアップしていた。何だか肩がこるわ。自然な感じに言ってみたかったセリフランキング第一位が言えた。言えてしまった。ありがとう。待ってたよ成長期。
「……レイコさん、レイコさん、間もなく空港に到着しますよ」
ふぁ……い、いけない。ヨルムンガンドちゃんの体があたたかくて、つい寝てしまった。
「ご、ごめんなさい。寝てしまいました」
「大丈夫ですよ。ではツアコン探し頑張りましょうね」
「はい、頑張りましょう」
あぁ、やっぱり夢よね……。さすがに一時間で胸は成長しないわ。大きな胸だと思った場所にはヨルムンガンドちゃんが張り付いている。何だか肩がこるわ。
車を空港内の駐車場に停めると国際線の到着ロビーに向かう。ここには、日本を訪れる観光客を待ち構えるために看板を掲げているツアコンを多く見かける。タカシさんからはダンジョン観光ツアーをメインにしている日本語がわかる外国人が理想とのことでした。
ちょうど便が到着したようで中国人っぽいツアコンが人数確認をしながら大型バスへと誘導していく。とりあえずそれっぽい人に声を掛けましょうかね。とはいえ私が話しかけても相手にされないだろうから、そこはてんとう虫さん任せです。
「レイコさん、あの日系人っぽい人が日本語を話していました。行ってみましょうか」
そのツアコンは見た目が日本人っぽいですが、看板にはDungeonの文字と他にも英語でいろいろと書かれています。てんとう虫さんが言うように日系人なのでしょうか。
「あのーすみません。少しいいですか?」
「はい。どうしました」
「ダンジョン観光のツアコンさんですよね。随分と日本語が流暢なんですね」
「えぇ。私、日本人ですから」
そういって名刺を見せられると代表取締役と書かれた肩書きの下に『山田エドワード』とあった。
「エドワード?」
「はい。ダンジョン景気で海外とのやりとりが増えてきたので親しみやすいように改名しようと考えてるんですよ。本名は山田謙太郎なんですが、みんなにはエディと呼ばせています」
「エディですか。なるほど」
「ところで何かご用ですか?」
「あぁ、そうでした。えっとちょっとこちらに来ていただけますか?」
あまり人目につかない場所へエディを案内して小声で話し始めた。
「私は高橋と申します。千葉の田舎で自営業をしているんですが、うちの裏山に出たんですよ」
「出たとは何がですか?」
「ダンジョンです」
「だ、ダンジョン!!」
「声が大きいですよ!」
「あー、すみません。そ、それで?」
「日本政府に見つかると封鎖されちゃうでしょう。それはつまらないと思いましてね。海外から来る探索者に入場料をとって開放しようと考えてるんですよ」
「それはおいしそうな話ですね。私に声を掛けたのは海外ツアー客との繋ぎをお願いしたいということで間違いないですか?」
「話が早くて助かります。エディはどちらの国がお強いのですか?」
「アメリカにオーストラリアとカナダですね。最近は毎日案内してますよ」
「それは素晴らしいですね」
「それにしても本当にダンジョンなんですか?ただの洞窟なら飽きるほどツアーでまわってるんですから」
「そう思われるのもしょうがないと思います。百聞は一見に如かずです。都合のいい日にこの住所の場所に事前連絡のうえ必ず一人で来てください。ただ、ツアコンさんの人数や得意な地域がある程度集まったら募集は終了しますので早めに決めて下さいね。さぁ電話番号を交換しましょう」
「高橋さん北米とオセアニアはうちに任せてください!で、でもダンジョンって危険なんですよね。大丈夫なんですか?」
「私も恐いので入口近くしか見てませんが、妖精のような小さいモンスターが羽根をパタパタと羽ばたかせて可愛らしく飛んでたんですよ」
「妖精ですか。それならあまり危険でもなさそうですね。わかりました。仕事の合間に必ず伺います!」
「エディ、わかっているとは思いますがこのことは内密にお願いしますよ」
「もちろんですとも」
二人は固い握手を交わしてその場を離れた。
「ヨルムンガンドちゃん、私たちあまり役にたってないけど大丈夫かな」
「レイコ。家に帰るまでが遠足なんだぞ」
これは断じて遠足ではないが、最後まで気を抜くなということだろう。そうね。ダンジョンに帰るまで気をつけましょう。それにしても、てんとう虫さんの働きが素晴らしすぎる。




