第5章 5話
ボート小屋に辿り着くと店の入口は開いているのだがそこには誰もいませんでした。平日の朝なんてお客さんはなかなか来ないのでしょう。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」
「はいはい。ちょっと待ってくださいねー」
遠くの方で声が聞こえてくると50代前半くらいのおじさんが店の奥から出てきました。どうやらボート小屋の裏手が住居になっているようです。
「おっ、二人でスワンボートかい?」
私とヨルムンガンドちゃんを見てスワンボートと判断したようですね。
「いえ。ボートには乗らないんですけど、ちょっとおとなしくしていただけますか」
「えーっとね。お嬢ちゃん。悪ふざけするならおじさん怒っちゃうよ」
私はおじさんの手を掴み捻りあげるとヨルムンガンドちゃんにガムテープで足、膝、手は後ろにしてぐるぐる巻きにして口も塞いでもらった。ガムテープ便利ですね。
店の台帳を確認したけど今日はまだお客さんはいないようですね。よし、閉店の看板を出しちゃいましょう。駐車場にもチェーンをしてお客さんが入れないようにします。今日のボート屋さんは終了です。
「レイコ、菜の花さん達全部出しといたぞ!」
闇の門から出た『菜の花』と『てんとう虫』達は店主のそばを囲うようにして埋め尽くしていく。彼を生きたまま催眠状態にして操るためだ。
なんのことやらわからないけど、とにかくヤバイ状況であることを理解した店主は体をよじりながら逃げ出そうとするが徐々に催眠が効いてきたのかおとなしくなっていった。
「このおじさん催眠にかかりやすいタイプのようね。ヨルムンガンドちゃん奥に誰かいないか見に行きましょう」
「おう、行こうぜ!」
そう言って右手を伸ばして手を繋ごうとしてくる。とっても愛らしいですね。私の母性がとどまることをしりません。
手を繋ぎながら住居スペースへ向かうと、店主の奥さんと思われる女性が洗濯をしているところだった。
「あなた、お客さんじゃなかったの……ってあらやだっ、旦那と間違えちゃったわ。どなたかしら?こっちは店じゃないの。ボートは向こうで借りてね」
「ボートは借りませんよ。この家には他に誰かいるんですか?」
「いないわよ。うちに用事なの?」
二人だけみたいね。手間が省けて助かるわ。さっきと同様に奥さんもガムテープ巻きにする。念のため家の中と周辺を見てきたが、どうやら二人暮らしで間違いないようだ。
「おっちゃんの方はもう大丈夫みたいだぞ」
「では、てんとう虫さんお願いします」
いつも通り耳の穴から侵入して体を乗っ取るとすぐに店主の車で成田空港へ向かう。もちろん私とヨルムンガンドちゃんも一緒についていく。催眠が途中で解けないように菜の花さんも何体か同行してもらう。
奥さんを操っているてんとう虫さんには留守番をお願いして誰か来たり、電話があってもいつも通りに対応するようにお願いした。
「レイコ、これからどこに行くんだっけ。車って眠くなるんだよな」
作戦会議にはヨルムンガンドちゃんもいたはずなんだけど、この子が覚えてるわけない。こう見えて見た目通りの可愛い五歳児なのだから。
「成田空港って場所に行くのよ。飛行機がいっぱい飛んでるんだから」
「へー、すごいな!」
きっと何がすごいのかは、わかってはいないだろう。成田にはダンジョンを探している外国人ツアコンを一本釣りするために向かっている。
日本を訪れる観光客は前年比500%以上で推移しているそうです。ダンジョン効果は絶大のようで観光客の目的はまだ発見されていないダンジョンを日本政府が見つけて封鎖する前に探索してレベルを上げたり、魔法を使いたいがためとのこと。
「ヨルムンガンドちゃん、まだ時間がかかるから寝てていいよ」
「うん。おやすみ……」
ヨルムンガンドちゃんは前回同様に私の胸に抱きついたまま寝る。どうしよう。母性がとまらない。こんなに母性に満ち溢れているのになぜ私の胸は大きくならないのかな。早く成長期きてほしい。成長期……まだ終わってないはず。もうひと伸びあるはずなんです。




