第4章 13話
『山梨ダンジョン』に突入してから三時間くらい経過した頃には全ゴブリンのリポップが完了していた。全部で二十八体で内、四体はゴブリンメイジだった。
レイコさんからゴブリン達に『山梨ダンジョン』が攻略されてからの大まかな流れを説明してもらい、これから『千葉ダンジョン』へ移動することと今後リポップすることが出来ない旨を説明してもらった。
すると、どういう訳なのかゴブリン達は僕に向かって頭を下げてきた。なんとなく感謝の気持ちが伝わってくる。
「ゴブリン達が言っています。私を守ってくれたことへの感謝。そして危険を省みず自分達を助け出してくれることへのお礼だそうです」
「なんだかむずがゆいね。気にしなくていいよ。君たちはレイコさんを守るために文字通り体を張ってくれた。辛かっただろう。今やレイコさんは僕の家族なんだ。家族の友を助けるのは当たり前のことだろ」
「ゴブゴブーフガフガ!」
「ゴブーゴブゴブ!」
「ゴブッ」
「レイコさんゴブリン達はなんて言ってるの?」
「知りません!」ドスッ、ドスッ
レイコさんは頬を紅く染めながら隣にいたゴブリンをグーパンしていた。れ、レベル差結構あるんだから殺さないでよ。リポップするとはいえ時間掛かるんだからね。
◇◇◇◆◆
話も無事に終わったところで、用意していた線香と花束をレイコさんが闇の門から取り出した。案内人のワインボトル先輩とボスモンスターだったゴブリンリーダーそして実験として研究機関に連れていかれたゴブリン達の弔いのためだ。
花は薄紫色の紫苑にした。花言葉は君を忘れない、そして追憶。楽しかった思い出を決して忘れないようにとレイコさんが選んだ。
全員に線香と花を配り終えると順番に祭壇に見立てた大きな木にお供えした。
レイコは目を瞑りながら先輩を思い浮かべる。もう二度と会うことは出来ない。この場所にも来ることはないだろう。でも、ずっとずっとずーっと忘れません。あなたに出会えたこと。あなたから教えていただいた強い気持ち。そして生き抜くこと。本当にありがとうございました!
涙を拭って晴々とした表情をみせるレイコさんに僕は少しドキッとした。帰りは背中の感触を楽しむ余裕があるだろうか。なんだか少し遠回りしたい気分だ。いろいろな意味で。
レイコさんとヨルムンガンドちゃんが闇の門へゴブリン達を案内していく。かなり狭いけど三時間ちょっとだから我慢してください。
かわいそうなのでペットボトルのお茶とピースケお薦め『千葉屋の落花生パイ』を三個ずつ渡した。仲良く召し上がってもらいたい。
さて、準備は整ったね。『千葉ダンジョン』に戻ろう。帰りに海ほたるに寄っておみやげでも買いたいな。
『山梨ダンジョン』を出ると一人の男が立っていた。武器を持っていない。特に敵意を感じなかったのもあり僕はゆっくり近づいた。
「攻撃はしないの?」
「意味がないからね。そんなことしたら、むしろこちらの被害が増えそうだ」
「そう。それで」
「君たちはなぜこのダンジョンに来たんだい?目的を知りたいんだ」
目的ね。
「さぁね。どんなダンジョンなのか興味があって来ただけだよ」
「君はとても強い。魔法も使える。どこでその力を手にいれたのかな?」
「そんなこと話すとでも」
「そうだね……。出来れば魔法の使い方だけでも教えてもらいたいのだけど。もちろん相応の謝礼は用意しよう」
「悪いけど話すことは何もない。じゃあね」
「あー。一応言っておくけど僕らの後を追いかける場合はそれなりに覚悟することだね」
青年は振り向かずに後ろ手を振りながら樹海のなかに消えていった。
「隊長、追いかけなくていいのですか?」
「ヘリコプターの準備を急げ。空から離れて追わせるんだ」




