第4章 7話
ヨルムンガンドちゃんを肩車しながら僕は、女性陣がお風呂から上がってくるのを会議室で待っていた。
「ピースケに聞きたいことがあるんだけど」
「なんすか?」
「『山梨ダンジョン』にいるゴブリン達を『千葉ダンジョン』に連れてきたらどうなる?」
「そうっすね。まぁ問題は無いと言えばないっす。メリットはないっすよ」
「なんか引っ掛かる言い方だね」
「ダンジョンのモンスターは魔素がないと生きていけないっす。『千葉ダンジョン』にも当たり前に魔素はあるので大丈夫っす」
「うん。それで」
「モンスターは召喚されたダンジョンに帰属するっす。だから『千葉ダンジョン』でゴブリンが死んだ場合リポップはしないっす」
「『山梨ダンジョン』でリポップするの?」
「しないっす。『山梨ダンジョン』で死んだ場合のみ『山梨ダンジョン』でリポップするっす」
「なるほど。つまり連れてこれるのか」
会議室の扉がバンッと開くとレイコさんが入ってきた。
「その話、本当なんですか!」
あっ、レイコさんを見たヨルムンガンドちゃんが僕から離れてレイコさんにおんぶをねだっている。父より乳なのである。これが母は強しということなのだろう。さみしい。
「みたいだね。レイコさん、ゴブリン達を連れてこよう」
ヨルムンガンドちゃんをおんぶしながら僕を見る目が輝く。今頼んだら僕もおんぶしてくれるだろうか。
「はいっ!」
「レイコよかったわね」
「お兄さま、『山梨ダンジョン』に行くメンバーはどうしましょう?」
ティアやレヴィに日本の地理感覚はない。普通に考えて僕かレイコさんがメンバーに入らないとならないだろう。
「そういえばピースケ、レイコさんはダンジョンの外に出れるのかな?」
「レイコは『千葉ダンジョン』に帰属するボスモンスターっす。つまり魔素がないと生きていけないっすが、二日以内に戻れば問題ないっす」
「マジか。ちなみに僕も魔素ないと生きていけないの?」
「マスターは魔素なくても大丈夫っすけど、ダンジョンから出るには結構なポイントが必要っすよ」
「うん。『ダンジョン外出券』5千万ポイントだよね。ポイント持ってくよねー」
ポイントは二億近くある。ちょっと使いきれるイメージはないからいいかなとか考えてしまうけど、『ボスモンスターリバイブ』が一億ポイント必要だとわかった。
これはリバイブ=蘇り。ボスモンスターの復活に必要なポイントが一億ポイントということである。何かあった時のために保険として持っておきたいところだ。
それでもこれは『千葉ダンジョン』で死んだ場合のみ適用される。つまりダンジョンの外で死んだ場合、二度と復活出来なくなってしまうのだ。安易に外出させるのもどうかと思う。
「魔素の影響を受けない僕が何か不慮の事故があった時に必要になるかもしれない。だから僕はメンバーに入る」
「あ、あの!タカシさん。私を連れていってください」
「うん。レイコさんにも来てもらうよ。ダンジョンの場所を正解に把握しているのはレイコさんだけだからね」
まぁ、樹海に行けばなんとなくわかるだろうけど、ゴブリンが来たがらなかったり話が通じなかったら困る。念のためだね。
あとは闇属性初級魔法闇の門だ。この魔法は闇の門を通じて物や生物をしまうことができる。
「レイコさん、闇の門の容量はどのくらい?」
「あっ、なるほど。二メートル四方ぐらいです」
「ヨルムンガンドちゃんと合わせれば全員運べるかな。三十体弱だよね?」
「はい。大丈夫ですね」
「そうなると、『山梨ダンジョン』に向かうのは僕とレイコさん、ヨルムンガンドちゃんで行く」
「お出掛けか?マスター!!」
「うん。力を貸してね。ヨルムンガンドちゃん」
「やったぜ!」
「お兄さま、私たちはお留守番ですか?」
「そうだね。お留守番の前に撹乱をお願い出来るかな。僕らに注目が集まらないように水竜の姿でひと暴れしてからダンジョンに戻ってほしいんだ」
「かしこまりました」
「あとは、菜の花畑に倒れているレベルアップ志願者達を使わせてもらおう」
「お兄さま、五体満足な死体は二人ぐらいでしょうか」
「充分だよ。てんとう虫さんに準備お願いして」
「はい。かしこまりました」
ポイント交換で『魔力回復薬300P』もいくつか準備しておこう。
さて、山梨までどうやって行こうかな……。




