第4章 6話
スタジオは騒然としていた。中継が途絶える前に映っていたのは二体の美しいブルードラゴン。どうやって空に滞空しているのか不思議になるほどの巨大さ。魔法らしきものが放たれた瞬間一面が真っ白になり中継は繋がらなくなった。
「中継は繋がりませんか?」
「現地と連絡とれません!」
「魔法だわ。あのドラゴンが魔法を放ったのだわ。なんて威力なの!」
サクラちゃんが興奮しながら喋りだした。
「ダンジョンを封鎖なんてするからよ。ブルードラゴンの怒りの咆哮よ。間違いないわ」
ミクちゃんは荒ぶっていらっしゃる。なぜかダンジョンの味方っぽい。
「……………」
リノちゃんは特にないらしい。彼女はモフモフにしか興味がないのだろう。自由だ。
「現地の状況が大変気になるところですが、浅川さんは大丈夫なんでしょうか。無事を祈るばかりです」
先程からニュース速報が流れているが、注意や警戒を喚起してなんとかなるレベルではない気がするのだが。
「えー、情報がはいりました。近くを飛行中だったヘリコプターが間もなく現地上空に到着するとのことです。中継は繋がりますか?どうぞ」
「はい。こちら千葉県富津市の『千葉ダンジョン』の上空に到着しました。えー、ドラゴンは肉眼では目にすることができません。今現在どこにも見当たりません。またダンジョン周辺は真っ白です。一面真っ白な世界が拡がっています。先程、自衛隊の戦闘機が木更津方向に戻っていく様子が窺えました」
「中継チームは確認できますか?」
「えー、こちらからは確認できません。一面真っ白なため何も判断できません。あれっ!ダンジョンに向かってかなりの人数が動いています」
「どういうことですか?」
「ダンジョンに向かって数百人規模が動いています。これは自称探索者と言われている方々ではないでしょうか」
「それはいけませんね!」
「続々とダンジョンに入っていきます。特侵隊は周辺にいません。おおよそ500名くらいでしょうか、全員がダンジョンに入ってしまいました」
「何よあれ!」
「どうしましたミクちゃん」
「ずるいわ!私だって入りたいのに!」
「えーっ!!!」
◇◇◇◆◆
場所は変わって官邸。
テレビはどの番組も緊急特番を組み、『千葉ダンジョン』に現れたドラゴンについて放送している。
官邸では、佐野首相、野崎官房長官、品田防衛大臣、安藤外務大臣が集まりテレビを見ながら打ち合わせを行っていた。
そもそも『特侵隊』の『千葉ダンジョン』攻略状況を整理して夕方の会見で発表する必要があるということで打ち合わせを行っていたのだ。
「品田さん、モンスターはダンジョンから出てくるのだな……」
苦虫を噛み締めたような渋い表情で佐野は品田防衛大臣にこぼした。
「ゴブリンは外に出ようとはしなかったと報告を受けていましたが、ゴブリンとは違う生態のモンスターがいるということでしょうか」
「それにしてもドラゴンか……特侵隊は全滅と思った方がいいだろうな」
佐野は安藤外務大臣の方を向きながら続けて話した。
「安藤さん日米安全保障条約にはダンジョンも含めてくれるかな?」
「ドラゴンが出現した今となっては不利な条件になりそうですね。オーウェン大統領ならいろいろと要求してくるでしょう」
「だよな。奴なら喜んで、すぐにでも電話がかかってきそうだ」
オーウェン大統領は安定した政権下で強気な発言を通してくる厄介なタイプの大統領だ。ダンジョン探査の見返りとしてダンジョンドロップアイテムの優先輸出、それも六割から八割は要求してきそうだな。さらに米軍の優先的なレベルアップも言われそう……。
「品田さん、『千葉ダンジョン』周辺の防衛強化と体制の見直しを早急に進めましょう」
「安藤さんはアメリカにダンジョンから出てくるモンスターからの防衛に在日米軍の力を安保理の観点から必要だと話を進めてください」
「「かしこまりました」」
「野崎さん、夕方の会見は任せてもいいかな?」
「ドラゴンが出てきたのに首相が出ない訳にはいかんでしょう。ダメですね」
「どうしても?」
「ダメですね」




