第3章 3話
世界に激震が走った日本政府による山梨ダンジョン攻略宣言から数日。
世界中はダンジョンフィーバーに沸いていた。
テレビカメラが連日中継に訪れ、ワイドショーやニュースでは毎日ダンジョン情報が取り上げられている。
動画配信されたゴブリンはデフォルメされグッズ化されており様々な商品となって大量に販売されている。
また、ダンジョン物の映画やアニメの企画が続々とあがり、過去の作品はもちろんのこと新規の製作も多く進められている。また関連するようにダンジョン絡みの雑誌、書籍も数多く販売されていった。
テレビや雑誌で様々な特集が組まれるなかでも特に注目されているのは『魔法』である。
動画では杖を持ったゴブリンが火の魔法を放っているように見える。そして日本政府から発表された隊員の能力向上は魔法の可能性を感じさせた。
つまり、何かしらの条件をクリアすることでレベルが上がる。といったことが考えられ、能力の向上によっては魔法が使えるようになるかもしれないという思いは日増しに強くなっていく。
人類は魔法が使えるかもしれない世界を夢見たのである。
一方、山梨や千葉のダンジョン周辺には国内はもちろん世界各国からも自称探索者があふれ、隙をついてはダンジョンに向かおうとするのを警察に止められていた。
警察はダンジョンの入口を厳重に封鎖し、その周辺一帯も一般市民はもちろんマスコミ関係者も完全にシャットアウトしていたのだが、ここまでマスコミや自称探索者等が増えてしまうのは予想を遥かに超えており、政府としても情報を提供することで過度な取材を控えてもらうことしか手段を見つけられなかった。
そうして発表された政府からの情報だったのだが、まさに驚愕のものであった。
その内の一つがステータスである。
ダンジョン内ではステータスを思い浮かべると自身のステータスが表示されることがわかった。
一般的な隊員のステータスはこんな感じである。
特殊部隊隊員一般型(人間)
レベル5
体力95
魔力0
攻撃力32
守備力35
素早さ30
レベル5になると一般的な成人男性と比較しても約3倍以上の能力向上があると考えられる。
そして世界中が歓喜に沸いたのが、次に発表された内容だった。
隊員のなかで10%程度の確率で魔力を持っている者がいることがわかったのだ。
魔法の使用方法はいまだ不明ではあるがこの情報は未来を感じさせるのに充分であった。
魔力タイプの隊員のステータスはこんな感じである。
特殊部隊隊員魔力型(人間)
レベル5
体力83
魔力30
攻撃力20
守備力23
素早さ18
魔力にステータスが振られる分、他のステータスの伸びは少ない。それでも一般的な成人男性の約2倍程度の能力向上がある。
またどんなにゴブリンを討伐してもレベルが5以上に上がらないためレベル上限は5だと考えられた。
※実際には上限はないが、ゴブリンから得られる経験値が少ないためレベル6に上がるのに時間が掛かり勘違いしている。
そして政府から更に驚きの資料映像が提供される。
それは100メートルを4秒台で駆け抜ける隊員の衝撃映像が映し出された。
もはや新人類といっていいだろう。
世界のスタンダードが崩壊した瞬間であった。
もし彼らがオリンピックに出場したら、もし彼らがプロスポーツ界に乗りこんできたら。あっという間にあらゆる記録が塗り替えられてしまうのは誰の目にも明らかだった。
続いて発表されたのは『ゴブリン』について。
ゴブリンの討伐から再出現までの時間が約4時間。
討伐時には光のエフェクトとともに消え去るのだが、30%程度の確率でドロップアイテムが確認された。
ドロップしたのは『傷薬』。
この『傷薬』の効果が異常だった。
名前の通り擦り傷や切り傷に効果があり、患部に塗りこむと完治する。そう、完治するのだ。まるで傷などなかったかのようにきれいに何も残らずに。あくまでも浅い外傷に限るが完治してしまうのは驚きであり、それはもう世の絆創膏メーカーが天を仰いだ瞬間であった……ではなく、ダンジョンに能力向上に次ぐ新たなメリットが生まれた瞬間であった。
『傷薬』の成分調査はすぐに研究機関にて行われたが地球上では発見されていない未知の成分でありその詳細は不明。結果は何もわからなかった。
これを受け各国では日本政府への早期ダンジョン解放を求めるとともに、独自にダンジョン探査チームが組まれ自国にダンジョンがないか調査が進められていく。
しかしながらいまだ日本以外でダンジョンが発見されたという報告はあがってきていない。




