第22章 12話
「ヨルムンガンドちゃん、向こうの山から追加の砕石を持ってきてもらえますか」
「おう、まかせとけ、レヴィ。あっちの山はもう崩しちゃってもいいか? 街からも離れているし問題ないだろ」
「そうですね、あちらは問題ないでしょう。材料を優先させましょう。それから、崩す前に街の建設に利用できる樹木などはちゃんと確保しておいてくださいね」
「おう。生き物もなるべくデカイ音だして逃がしとくからよ!」
上流からの水の流れをせきとめる為に、この山あいの一帯を土魔法を使用してダム建設をすることになっている。このダムは新しくできる街においてもとても大切なミッションを担っています。ここでは水力発電を行い、街へ電力を供給する手筈になっているからなのです。もちろん、ダムの機能として大規模な大雨対策、夏場や農作物への水対策も兼ねてのこと。
「レヴィちゃん、こんな感じでいいわね。セメントが無くてもちゃんと固まるのね。この強度なら水をせきとめるのにも十分だと思うわ。魔法ってとっても便利ねー」
「エディに土魔法の才能があったのは驚きです」
まだ魔力量の乏しいエディには土魔法を使って石灰石や砕石等を丁度良い分量で混ぜ合わせるまでをお願いしており、私の作業はその材料を熱を加えながら巨大なコンクリートブロックに成型していくこと。あと半分ぐらいで必要とする材料が全部揃いそうですね。
「私のレベルがもう少し上がっていればレヴィちゃんのお手伝いも出来たんだけど……。こればっかりはしょうがないわよね」
「エディには配合や強度などの知識を助言してもらってますから十分助かってますよ」
このスピードなら今日中には何とか目途が立ちそうだ。お姉さまの方は大丈夫でしょうか。レイコさんがいるから安心とは言え、向こうは細かい作業が多そうなので少し心配です。
そんなことを思っていたからなのか、突然、ものすごい魔力の奔流が街の方角から立ち昇ってきました。その直後にはとんでもない爆音が遅れて届いてきました。
「ちょ、ちょっと、何なの!? あれ、やばくない?」
「街の方からですね。でも、この魔力はお姉さまとレイコさん……? 一応、制御されている魔法のようなので大丈夫だとは思いますが、この規模の魔法となると気になりますね」
「魔法を知って、あらためてあなた達がとんでもない人だったのだと理解したわ……」
「私からしたらエディの転身ぶりも凄まじいと思っていますよ」
「あら、嬉しいわね。これはきっと運命だったのね」
出会った頃は普通のツアーコンダクターだったのに、いつの間にか私たちにとっても必要不可欠な人材になってしまった。お姉さまなんてお金に困った時はすぐにエディを呼びますものね。
「それでは、土台の方から組み立てていきましょうか。エディはコンクリートブロックの接着をお願いしますね」
「ええ、それぐらいなら任せてちょうだい」
そうして、作業の半分が終わった頃だった。ヨルムンガンドちゃんが、何かから追われるようにしながら戻ってきたのです。その大きさは水竜になった私をあっさり超える巨体の持ち主でした。
「レヴィ! 山に主がいたぞ!」
驚きながらも、ちょっと楽しそうにしているヨルムンガンドちゃん。少しだけお仕置きをしたくなりますね。
「ひっ、蛾よ! デッカイ蛾よ!?」
どうやら、エディは虫が苦手みたいですね。蛾というには失礼な、とてもきれいな色をしています。どちらかというと色鮮やかな蝶のようですね。
「こいつの名前はモスラにする!」
どうやら、私たちに見せに来ただけのようです。自分の力で屈服させて、配下にしようとでも思っているのでしょう。
「ヨルムンガンドちゃん。折角、ダムがもうすぐ完成しようとしているのに、ここで暴れて壊しでもしたらさすがに怒るわよ」
「違ぇーよ。モスラはな、このダムの主になってもらうんだよ。はぐれの水竜とかが住み着いても困るだろ」
そんなにいっぱい水竜はいませんよ。でも確かに、これだけの規模の建造物を守るための見張りは必要かもしれませんね。
「それにな、こいつ、ご飯もらえればちゃんと働くって言ってるんだ。エディの言ってた風力発電とかいうやつに協力してくれそうだぜ」
「ちょっと、鱗粉ですぐ故障しちゃいそうじゃない。毒とかないんでしょうね?」
「ど、毒は、その、気をつけるように話しておくから大丈夫だよ……」
「やっぱり毒あるんじゃない! ダメよ、早く向こうに離してきなさい」
「な、何でだよー! モスラ泣きそうじゃねぇかよ。こっちの都合で家を奪っちゃったんだから、ちゃんと面倒見てあげようぜ!」
困ったなーと思っていたら、ちょうどお兄さまがいらっしゃったようです。お姉さまとレイコさんも一緒ということは、街の方はもう大丈夫ということなのでしょう。
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