第22章 8話
「タカシ様は、最近、アイシャと雪蘭のとこばっかりですわ! そろそろ抗議してもいいと思いますの」
「でも、お姉さま。お兄さまは、外国の新人ダンジョンだからこそ、先にポイントクリアの目処をつけたいのだと思いますよ」
「レヴィの言うことは正論よ。正論すぎるわ。でも、それでは私たちの心のさみしさは埋まらないの!」
しばらく第二世界に飛ばされていたと思って帰ってきたら、今度はポイントクリアをするために他のダンジョンにかかりっきり。大変なのはわかるのだけど、つまらな……い、いや、さみしいのよ。とても心が渇いているのよ! これが、けん怠期とかいうやつなのかしら。
「ところで、レイコは何をやっているの?」
「レイコさんは、エディと『菜の花ホールディングス』の事業解体、売却。それから貯まっている円を何に変えるかの会議しています。午後から私も呼ばれているので、これから向かうところです」
レイコもレヴィもすっかり仕事人間になってしまったわ……。でも、円を何に変えるかというのはとても興味があるわね。もう戻ってこれなくなるのだもの。第一世界にはない甘味を大量に持っていかなければならないのよ。
「そうね、私も『菜の花ホールディングス』の幹部として会議に参加しようかしら」
「お姉さまは、呼ばれてないのでは?」
「そ、そんなことないわ。わ、私、幹部だし」
「そ、そうですよね。ところで、『大阪ダンジョン』のモンスター移動の件は大丈夫なのですか?」
「あー、あれは、つまらないからウンディーネと『新潟ダンジョン』の小娘たちに丸投げ、じゃなくて指示しておいたわ」
「そ、そうでしたか。それでは、ボート小屋で行われるそうなので、一緒に向かいましょう」
ボート小屋といっても、現在は閉店しておりボートもたまにタカシ様や私たちがバスフィッシングで利用するぐらい。それでもボート小屋の主人、高橋さんはボートのメンテナンスをしっかりしてくれている。まぁ、中身はてんとう虫さんなのですけど。
歩いていると、ちょうど外で合流したレイコとエディが立ち話をしているところだった。
「レイコ、何やら面白そう……大事な会議があると聞いたので私も参加することにしたわ」
レイコがレヴィを見ながら眉間にシワを寄せているのが確認できた。ふっ、自分の好きな甘味を大量に確保するつもりだったのは明白よ。
「ティア先生がいると話が進まなくなりそうだったので、とりあえず叩き台を3人で話をしてと思っていたのですが……」
「それには及ばないわ。私、幹部としてこの一大事に真っ正面から立ち向かうつもりですの」
ふぅ、何とか誤魔化せたかしら。とりあえず、真剣に話をしている振りをしながらどの甘味を買わせるか誘導しないとですわ。
「ティアちゃんは、お菓子を大量に買わせようとしているのかもしれないけど、残念ながら嗜好品をそこまで大量に買うつもりはないわよ」
「ど、ど、ど、どういうことかしらエディ?」
「あなた、ちょっと動揺しすぎよ」
「ティア先生、いずれ無くなってしまうお菓子を買うなら、その原料となる種子や材料、また価値の変わらない宝石、金、銀等の鉱石を買おうと思っているのです」
「お、お菓子は少しも買わないの!?」
「もちろん、少しは買いますよ。でも、日持ちを考えるとそこまで大量には難しいです」
「原料ね……。ところで甘味の原料って何かしら?」
「砂糖ならサトウキビやテンサイ。あんこなら小豆ですね。でも砂糖や塩等については第一世界にもありました。ですので、第一世界にない原料で必要になるものをピックアップしようと思ってます」
「原材料なんて知らないわ。エディ、とりあえずダンジョンバームクーヘンの材料を教えなさい!」
「そんなこと急に言われても……小麦粉に砂糖、あとハチミツと卵かしら」
「レヴィ、小麦は向こうにあったかしら?」
「パスタ料理がありましたので大丈夫と思われます。でも、ハチミツは調べてみないとわからないですね」
「卵はダンジョンで産ませている物の方が質は高いです。これはこれで商売になりそうなので持っていきましょう」
どうやら、第一世界にない原料、商売に繋がりそうな物を検討しているらしい。ちょっと私の考えていたものと違うわ。もっと楽しいワクワクを期待していたのに、これでは私の渇きがおさまらないかしら……。
「なるほどね。わかったわ、とりあえずインスピレーションを高めるのにバスフィッシングに行ってくるわ。あとはよろしく頼むわね。高橋さん! すぐにボートを用意してくれるかしら?」
さて、とても暇だわ。タカシ様が戻ってくるまで湖上でお昼寝でもしましょう。こんなことなら、他のダンジョンに遊びに行ってた方が楽しかったかしら。
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