第22章 7話
急に真剣な表情になる雪蘭さん。らしくないと言えばらしくない。
「第一世界の話かな?」
「そうだ。第一世界は今は安全と言っていたよな。もう少し詳しく話を聞きたい」
よく覚えていたね、そんなこと。自分でもはっきり覚えていないぐらいなんだけど、確かにそう言った気もしないでもない。特段、隠すつもりもなかったから、何か質問があれば話すつもりだったのだよ。
「そうだね。二つの種族で戦争が起こっていたんだけど、それもつい先日に終了したんだ。だから、今は安全というわけ。揉め事の種は一掃してあるから、少なくとも今後、しばらくはそういうことはないかなと思う」
「そ、そうか。こちらの世界と比べて、その、いいところなのか? また、ダンジョンマスターをさせられたりして、酷い目に合うのではないのか?」
うーん、もう少し第一世界についての話をしておいた方がよかったのかもしれない。話をした時は、少し悩んでても最終的には全員が第一世界に来るものだと思って話していた節がある。でも、雪蘭さんの反応を見てると、結構しっかりと迷っているよね。
「今の状況よりは自由に暮らせると思うよ。向こうにはダンジョンは無いからね。あとはそうだね、一応、貴族社会だからそのあたりは慣れが必要かもしれない」
「中国のような国家首席がいるということか?」
中国が階級社会かと聞かれても、ちょっとよくわからない。魔王様がいて、貴族が領地を治めている。まぁ、似たようなもんなのかな……。
「そんな感じ……なのかな。ちなみに、僕は向こうの世界で貴族になっているんだ。王女様と婚約をしているから、後々に公爵として領地を治めることになる。だから、みんなには僕の領地に来てもらうつもりでいるんだ」
「つ、つまり、タカシが国家首席なのだな」
「い、いや、違うよ!?」
魔王様からは向こうの公爵領との間の領地を渡すと言われている。つまり、聖女様とかベルサリオ公爵改めベルサリオ王がいた街になる。いたと過去形になっているのは、ベルサリオ王が、王都をベルサリオ領に遷都せずに、今までの場所をそのまま王都にしたからだ。
ということで、現在のベルサリオ領は息子さんが引き継ぐことになっているそうだ。お隣さんになるので、次回、戻った時にでもご挨拶させてもらおうと思う。
「一応聞くのだが、私たちは、タカシの国で何をさせられるのだ?」
「うーん、みんな得意不得意はあると思うから、様子を見ながら出来ることをやってもらいたい。まだはっきり決まってないんだよね。とりあえず領地経営のお手伝いをお願いするつもりだよ」
「私は料理ぐらいしか出来ないぞ」
「あっ、アイシャも料理好きなので、みなさんのご飯作りますよ」
食卓が中華とアジア料理一色に染まりそうだな……。いや、嫌いじゃないけどさ。
「それは是非お願いしたいかな。出来れば和食も覚えてくれるとみんなも喜ぶと思うよ」
「と、ところで隣国と隣り合っているというのは、その、大丈夫なのか?」
「うん、仲の良い領地だから大丈夫。隣の国との貿易を中心に利益が出る、かなり恵まれた立地をもらえたから、商業を中心とした賑やかな街になればなーと思っているんだよね」
「ゆるいな。とても、ゆるい感じがするな」
「ご、ごめんね。急に領地とか言われてもしっくりこなくてさ」
「いや、ゆるくて結構。こちらの世界に残るよりも、ずっと楽しい暮らしが送れそうな気がしてきた。アイシャ、どうだ、一緒に第一世界へ行ってみないか?」
「雪蘭お姉さんが行くならアイシャもついていきますよ」
「それから、タカシ。今の話は他のみんなにもした方がいいと思うぞ。急な話にみな戸惑っていた。情報はなるべく多く渡すべきだろう」
「そうだね。雪蘭さんやアイシャちゃんと話していて、まだまだ話が足りていなかったと思い知ったよ。定期的に集まってもらって情報共有する時間を作るよ」
「その方がいい。みんなタカシには感謝しているが、お前は急な話が多いから少し信頼を失っている可能性もある」
マジか。いや、雪蘭さんの言う通りかもしれないな。ダンジョンの入口を封鎖させたり、見張りを置いたりしてる訳で、初期のダンジョンマスターならまだしも新人さん達からしたら思うところはあるのかもしれない。
「少し反省した方がいいかな。オッケー、もう少し親身になって話をしていくことにしようか」
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