第22章 6話
そういえば雪蘭さんの『鏡泊湖ダンジョン』に行くのは初めてのことだ。まだなかなかポイントを稼げていないので苦労はしていることだろう。実際に呼ばれた場所は、いたって普通の中部屋で最初の頃を思い出す。
「き、来たか」
少し緊張気味の雪蘭さん。アイシャちゃんを後ろから抱きしめながら、心を落ち着かせているように見えなくもない。
「それで、雪蘭さんは『ブラックシャーク』をどうやって倒す?」
「出来れば私自身で倒したい。レベルも上げたいからな。でも、私一人では流石に無理だろう」
「そうだね。僕がある程度ダメージを入れておくよ。とどめを雪蘭さんにお願いするね。それから、ポイントが貯まったら優先的に闇属性の闇の門を習得してほしい」
「わ、わかっている。『ブラックシャーク』を運ぶためだな」
本当は、『ブラックシャーク』を眠らせる魔法も一緒に覚えてもらいたいのだけど、これはさすがに難しそうだ。面倒ではあるけど、時間がある時に、僕が『ペナンダンジョン』で大量に捕獲しておくしかあるまい。
「ちなみにだけど、得意属性と今のレベルは?」
「闇属性でレベルは二だ」
闇属性か……。闇夜の海に棲む『ブラックシャーク』だけに、闇属性は一番攻撃が通らなそうな気がしないでもない。
「な、なんだ! し、しょうがないだろう。私だってわかっているんだ。そんなガッカリした顔をするなっ!」
いかんいかん、残念な表情を隠すことをすっかり忘れていたよ。
「属性、もう一つなかったっけ?」
「火属性もあるが、あまり使えない……」
「雪蘭お姉さんは、私が火属性得意になったから、使いたがらないんです」
嫉妬か。
「だって、アイシャの威力の半分もないんだぞ。きっと私には闇の力の方が優れている」
「レベルが上がった影響も多少はあると思うんだ。雪蘭さんも可能性はあるんじゃないかな。とりあえず、どちらでも構わないからやってみようか」
僕はグッスリと眠っている『ブラックシャーク』を取り出すと、そのまま真っ二つに切り裂いた。
炎剣
「お、おいっ、殺してないだろうな!?」
「まだ大丈夫だと思うよ。それよりも、雪蘭さん早く攻撃を」
「う、うむ」
すでに瀕死状態の『ブラックシャーク』に得意な闇属性魔法を撃ち込む。
闇矢!
得意というだけあって、コントロールは良いようだ。急所に集中させるようにして、あっさりと『ブラックシャーク』を仕留めてみせた。
「どうかな?」
「す、すごいな……。レベルが一気に四に上がったぞ。あ、あれっ、ポイントが百万も入ってる……」
「一気にレベル四ですか!? 雪蘭お姉さん、すごいです」
「い、いや、ポイントがだな……」
予想以上に高ポイントが入るようだ。つまり、これをあと九百九十九回繰り返せば十億ポイントクリアとなる。どうなんだろう。一日十回討伐して約三ヶ月か。『ペナンダンジョン』のポイント次第な気がしてきたな。
「アイシャちゃん、一日に使えそうなポイントはどのくらい?」
「今なら百万ポイントぐらいなら回せると思います」
「結構回せるんだね。でも……」
「はい。これだと、雪蘭お姉さんのダンジョンとあと二箇所ぐらいが限界ですね」
半年後にクリアを目指すとなると、やはり厳しい数字に思える。それでも新人ダンジョンが三ヶ月でポイントクリアするというのは凄いことだけどね。
「なるべく、『ペナンダンジョン』にポイントが入るように、策を考えた方がいいかもしれないんだけど……」
「入口はマレーシア政府がしっかり押さえているので、身動きがとれませんよね」
「タカシ、マレーシア政府と今の関係を崩すのは良策ではない。あれだ、『ブラックシャーク』よりも強力なダンジョンモンスターを召喚して試してみたらどうだ」
『ブラックシャーク』よりも強力なダンジョンモンスターか……。
「同じモンスターを大量に召喚することで、別の個体を召喚できるようになったケースもある。今は『ブラックシャーク』をどんどん召喚して、さらに上の個体が召喚出来るようになったらその時に考えようか」
「それにしても、うちのダンジョンを優先してもらってよかったのか? 他のダンジョンマスターに少し申し訳ない気がする」
「気にしなくていいよ。どちらにしろ『ペナンダンジョン』と『鏡泊湖ダンジョン』は優先順位が高かったんだ。ほらっ、自衛隊とか在日米軍を派遣できないからさ」
「な、なるほど。そういう理由があったのか」
「まあ、時間がかかったとしても観光客を装って突っ込むことは考えてはいたけどさ」
「そのことだが、タカシに話がある」




