第21章 14話
「わ、わかった。傘下に入ろう」
「うん、じゃあ全員で掛かってきていいよ……あれっ? 傘下に入るの?」
「その水色のボスモンスターのマスターで、しかもドリゼラとトレーシーのボスモンスターをあっさり短時間で倒している相手に僕が勝てるわけがない。そ、それで、僕は何をすればいいんだ?」
「ずいぶんと物分かりがいいんだね。ガリオン君には、このダンジョンで稼いだポイントの半分を『クリスタルマウンテンダンジョン』に渡してもらいたいんだけど、傘下とはいえダンジョン間のポイント移動は禁止されている」
「食料や水といった形のあるもので提供すればいいか?」
「そうだね。食料と水についてはしっかり提供してもらおう。それから、形式上傘下に入ってもらうけど、実際には傘下に入らないままでいてもらおうと思ってる」
「ど、どういうことだよ!」
「ガリオン君は、このダンジョンでどうやってポイントを稼いでいたの?」
「ダンジョンの外にいる野生動物を追い込んでダンジョン内で仕留めていた。この辺りには多少だが野生動物がいるからな」
「一応聞くけど、ドリゼラとトレーシーのダンジョンは?」
「放棄した。どちらのダンジョンも立地的に厳しいからな。それなら戦力をこちらに集中させる方がポイントを稼げる」
そんなことだろうとは思ったけど、案内人を置いてきているよね。まあ、しょうがないとはいえ、ちょっとかわいそうだ。
「ガリオン君は、ここで今まで通りポイントを稼いでもらうよ。でも、ドリゼラとトレーシーを除く全てのボスモンスターは捕虜として『クリスタルマウンテンダンジョン』に来てもらう」
「ふ、ふざけるな! それじゃあ、僕のダンジョンがポイントを稼げないじゃないか」
「嫌なら交渉は決裂かな。別にこっちは困っていないんだ。残っているダンジョンモンスターで頑張ってやり繰りすればいいんじゃないか」
「そ、そっちだってポイントを稼げないから、捕虜にしてポイントを稼ごうとしているんだろう。見え見えなんだよ!」
「ポイントを稼ぐのは当たり前の話だよ。僕たちはダンジョンマスターなんだ。ただ、勘違いしないでもらいたいのは、今現在、君たちの命を握っているのは僕らであって、意見を聞くつもりもなければ、気分次第で殺してしまうことだってあるということを忘れないでもらいたい。この世界は、君たちが思っている以上に弱肉強食なんだ。気に入らないことがあるなら歯向かえばいいよ。その代わり、このダンジョンがどうなるかは知らないけどね」
「な、なんなんだよ、急に体の震えが……」
「う、動けないし、汗が止まらないんだけど……」
「ひ、ひぅ……」
おっと、つい魔力を垂れ流してしまった。頼むから、あまりイライラさせないでもらいたいものだ。ボトル先輩とルーナちゃんがポイントをクリアするために、どうこいつらを利用しようかと考えているんだけど、正直あまり良い案が浮かばない。
「まずは、ドリゼラとトレーシーのダンジョンに案内してほしい。その場所までウンディーネとジルサンダーを向かわせる」
「あ、案内してもいいけど、何もないわよ。たいしたモンスターも残ってないし」
「あー、案内してくれるだけでいいよ」
ウンディーネには周辺の地理や環境なども確認してもらいたいと指示をしておいた。とはいえ、放棄されるぐらいなのだから、あまり期待はできないだろう。
そう思っていたんだけど、戻ってきたウンディーネから予想外の報告が上がってきた。さすが第二世界、とういうかファンタジーの歴史が長い世界だけある。ドリゼラのダンジョン近くの山にドワーフの集落を発見したとのこと。山を切り崩した地中で生活をしているらしい。立地的に人間との交流をしている可能性も低く、お互いに利用価値があるのではないかとのことだった。これは、すぐにでもお話し合いに伺わせてもらおう。
「それじゃあ、定期的に水と食料を調達に来るから用意しておくように。用意できなかった場合は残念だけど、ここを潰すことになるから気をつけるようにね。それから、ルーナちゃんに変な交渉を持ち掛けた場合も同じだから注意した方がいい」
「い、一応聞いておきたいんだけどよ、もしも、このダンジョンが人間どもに攻められた場合は助けに来てくれるのか?」
「それは君たちの働き方次第じゃないかな。クリスタルマウンテンにとって有用であるならもちろん助けるだろう。君たちはルーナちゃんから信頼を得られるように誠心誠意働いてくれればいい。それじゃあ、ドリゼラとトレーシー以外のボスモンスターはもらっていくよ。次の定期訪問までに頑張って」
◇◇◇◆◆
「ど、どうするのよガリオン!」
「そうよ! あんなのにやられっぱなしでいいの?」
「う、うるさい! しょうがないだろう。そ、それに、お前らすぐに裏切りやがって」
「演技に決まってるじゃない。そういう振りをして様子を見ただけよ」
「当たり前でしょ。それよりも、こんな苦労をする為にガリオンの傘下に入った訳じゃないの。どうにかしてよ!」
「どうにかしてって言われても、あのマスターは俺よりも少しレベルが上だと思う。ボスモンスターも強かったしな。こっちもレベルを上げて力をつけるしかないか……」
「レベルを上げるっていってもボスモンスターを持っていかれちゃってるし、ダンジョンモンスターを総動員するしかないわね」
「そうだわ、私とトレーシーで人がいる場所を探してくるわ。村でも集落でも発見できればここまで誘導してくるわ」
「そんなことして、大丈夫なのか? 魔素がないとお前たちは……」
「もちろん、無理のない範囲で探索するわよ。ガリオンは今まで通りレベルを上げていって。私たちは他のポイント取得手段を考えるから」
「わ、わかった。こんなことになってしまって申し訳ない。でも、俺、頑張るからみんなでこのピンチを乗り切ろう!」
◇◇◇◆◆
「それで、ドリゼラの本心はどうなの?」
「もうこのダンジョンはダメだわ。私たちはダンジョンの外に出られる。少しでも情報を集めながら、次のダンジョンに寄生するわよ」
「まぁ、そうなるわよね。ガリオンも、もう少し頑張るかと思ったけど全然だったものね。ルーナに助けを求める線が一番上手くいきそうな気がするけど、案内人とあのタカシってのが厄介よね」
「一応、会談の窓口も私たちでするようにガリオンを言いくるめて、少しでもルーナとの接点を持つようにしましょう」
「あー、それから今後こういう話はダンジョンの外でするようにしましょうね。どこでガリオンが見ているかわからないもの」
「そうね、了解よ。ではしばらくは、情報収集といきましょう」
しかしながら、ダンジョン内でのその会話は案内人を通してすぐにガリオンへと伝えられる。疑心暗鬼となったガリオンは二人をすぐに殺してしまう。こうして、ますます『ポルンガダンジョン』の戦力は低下していくことになるのだが、逆にこのことが要因となりガリオンのルーナへの貢献度が高まっていくことになるとは誰も予想していなかった。
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