第21章 7話
四階層に運び込まれた人々も、徐々に起き始めると自分の身に何が起こっているのか理解しはじめていた。見たこともない生活の気配のない街。さっきまで暮らしていたセントポールではないどこか違う場所。
「お、俺たちは一体……。さっきまでセントポールにいたはずなのに」
「そ、そうだ! 勇者メルビルの広範囲魔法で街が焼かれてしまったんだ」
「きっと、メルビルはダンジョンマスターだったんだ!」
「じゃあ、ここは……ダンジョンの中なの!?」
「あ、あそこに見えるのは!!」
街を見下ろすように、一番高い教会風の建物の屋根にメルビル君を出現させた。ここがダンジョン内であることと、メルビル君がダンジョンマスターだと認識させるためだ。後の説明は、ドロシーに頑張ってもらう。これからここを管理するのは彼女だからね。
「み、みなさん。目が覚めたようですね。ここはメルビル様が管理するダンジョンです。あなた達は生かされました。あなた達が生きているのはダンジョンの為、そしてメルビル様の為。ダンジョンに造られたこの街の中であなた達はずっと暮らしてもらいます。脱走など考えないことです。この階層に逃げ道はありませんので」
「メルビルの目的は何なんだ! 俺たちを解放しろ!」
「そうだ! そうだ! 勇者の癖に裏切るなんて学園都市の恥さらしめ!」
シュパァァンッ!!! パァァン!!
悪態を吐いた二人は見せしめのように、頭が吹き飛ばされた。周辺は血まみれのスプラッタ状態になっている。もちろんのこと、この激しい殺し方はウンディーネによるものである。
「ひっ、いやぁぁぁぁ!!!」
「あなた達がメルビル様の目的を知る必要などないのです。勘違いしないでもらいたいのですけど、あなた達はただ生かされているだけで、誰も殺さないとは言ってませんよ」
ようやく、自分の立場を理解したのか大人しくなっていく。もちろん、彼ら、彼女らが魔法を使うことは出来ない。両腕には魔力を奪う拘束具が付けられている。
「あなた達の選択肢は一つだけ。ここで幸せに暮らすことよ。それが嫌なら勝手に死ねばいいわ。崖から飛び降りればきっと死ねると思うの。それから、その拘束具を外したら死ぬことになるから気をつけなさい。死にたいのなら外しても構わないけど」
「お、俺たちは何のために生きればいいんだ……」
「そうね、この街の人口が増えて十万人を超えたら半数の五万人を解放してもいいわよ」
もちろん嘘だ。十万に増えたポイントをみすみす逃すわけがない。ただ、少しばかりは希望を与えてあげないと生きるモチベーションが無くなってしまうだろう。もしも頑張って人口が増えたら、その時は新しい階層を造って半数はそこへ連れていってあげようじゃないか。
「今ここに何人いるかわからないが、十万人に増加するのに一体何年かかると思っているんだ」
「さぁ、十年後なのか、二十年後なのか。それはあなた達次第じゃないかしら。ここで生きていくつもりがある限り、病気や怪我は全て治してあげるわ。もちろん、出産で死ぬようなこともないから安心しなさい」
最初から選択肢はない。これで迂闊に自殺するような者を防ぐこともできる。全員で死なないように監視してもらおう。頑張って人口を増やしてくれ。
「追って説明はするけど、最初の一年間は食料は用意するけど、その後は自分達で何とかしなさい。必要な物資は希望に応じて手配してもいいわ。とりあえず、作物の種は各家に用意してあるわ。しっかり育てることね」
「家は、どこを使っても構わないのか?」
「話し合って決めてもいいし、早い者勝ちでもどっちでも構わないわよ。街のことはあなた達で決めてもらっていいわ」
「そ、そうか……」
「それから、この街のために尽くしてくれた人にはご褒美を与えることにするわ。よく考えて生活することね。逆もまた然り、変な行動をとっている者には罰を与えることになる。あなた達の行動一つ一つは細かくチェックされているものと思いなさい。信じるか信じないかはあなた達次第なのだけどね」
これぐらいのゆるい感じの取り決めで充分だろう。深く干渉するつもりもない。彼らがいるだけでポイントが増えていくのだ。歯向かうというのなら手を打つ必要があるけど、褒美を与えることで告げ口してくる者もいるだろう。その内に歯向かおうとする心は折れる。それに彼らが協力的になるのなら、こちらもそれ相応の褒美を与えられることだろう。
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