第21章 6話
「あ、あの、タカシ様。こ、これは、一体何が起こっているのでしょうか……」
ドロシーが驚くのは無理もない。現在、『空島ダンジョン』には約三万人の学園都市で暮らす人々が連れてこられているのだから。これで何往復だろうか、僕の闇の門から大量の人が運びこまれている。
「とりあえず、もう少ししたら目を覚ましてしまう可能性があるから、ダンジョンを拡張してもらいたいんだ。四階層目を造って、この人たちが暮らしていけるような街をつくってほしい。ドロシーがこの街の王様になるんだ」
「お、王様ですか。いえ、私は女の子だから、女王様ですね。みなにドロシー女王とか呼ばれちゃうのですね……」
「ウンディーネとジルサンダーは、万が一彼らが目を覚ました場合の対処をお願いするね」
激しく困惑しているドロシーではあるが、これで『空島ダンジョン』が負けることはない。勇者パーティが増えない限り、きっと最後まで残り続けるだろう。
学園都市セントポールは壊滅したかに見せて、生存者は全て連れてきた。魔法攻撃やそれに伴う火災などで既に命を落としている者は残念ながらあきらめざるを得なかったが、重傷者や怪我人は全てきれいさっぱり治癒して連れてきた。
そして街は、あとでこの世界の人間が調査に来てもわからないように全部吹っ飛ばしてきた。街があった場所には、綺麗な半円形のクレーターが残されているのみ。そこに街があったとは誰も思わないだろうし、ましてや生存者がいるなんて想像も出来ないだろう。
「あ、あの、階層はどうしましょうか。……うん、どうしたのスケアクロウ? えっ、特典?」
どうやら、ダンジョンにとんでもない数の人間が訪れたことによる、ボーナス特典が貰えているらしい。
「ドロシー、何がもらえたの?」
「えっとですね。一日にダンジョンを訪れる人数が一万人を超えたとのことで、ダメージ力が半減する魔法のローブがもらえました」
いっぱい人が来ちゃったから頑張って耐えてね。というマゾ装備的な物なのだろうか。とはいえ、ダメージ半減とか伝説級の防具だろう。
「すごい防具だね。それは魔法も?」
「いえ、魔法は普通にダメージを受けるようです。あくまでも直接攻撃に対してのダメージ半減ですね。それから……」
「それから?」
「階層状態に街が追加されました。サイズが小、中、大と選べます。小で一万人規模、中で五万人規模、大で十万人規模になるそうです」
「街ね……。人数的には中規模で造るべきなんだろうけど、それってまさか維持費とかかからない?」
「維持費等のコストはかからないようですね。ポイント的にも問題はなさそうです」
もしやのブラックシリーズの可能性を考えたけどそうでもないらしい。それであれば、何も悩む必要はないか。この大人数をしっかり逃がさずに管理できるよう、ちょっとした改造は必要かもしれないけども。
「それなら四階層のプランは街の(中)で決定かな。出してみてから細かいところを調整してみようか」
「はい、かしこまりました」
居住区の前の階層に新しい階層が完成した。実際に足を踏み入れてみると、そこにはダンジョンの中とは思えない別世界が広がっていた。
「これって、階層の入口はどうなっているのかな……」
普通のダンジョンの階層であれば、三階層と居住区に繋がる箇所に階段があらわれる。この階段を目指して下の階層に進んでいくものなのだけど、ここは完全に独立してしまっているかのように見える。
「タカシ様、階段がありません……。これって戻れないんですか!?」
僕たちは、居住区から階段を登り四階層にきたつもりだったんだけど、街の階層に入った瞬間にその階段は消えてしまっていた。
「落ち着いてドロシー、ダンジョン内転移をポイントで取得するんだ。今ならポイントも問題ないはずだよ」
「あ、はい。そ、そうですね」
念のため、来た場所を詳しく調べてみるのだけど、階段があったと思われる場所は断崖絶壁になっていて、足を伸ばしてみてもそこはスカスカで間違いなく崖から落ちてしまうっぽい。
「ドロシー、取得できたかな?」
「はい、大丈夫です。居住区へ戻りますか?」
「いや、三階層へ行こう。四階層への繫ぎの部分が気になる」
結果としては、三階層の次は居住区へと繋がっているらしく直接四階層へは行けないようになっていた。この階層は戦闘階層ではないという位置づけになるのか。
「これって、四階層からはダンジョン内転移なしには脱出出来ないということなのでしょうか」
「どうやら、そういうことみたいだね」
街の周りを囲うようにして断崖絶壁となっており、ここはまるで階層に浮かぶ島。まさに空島のように宙に浮いているのではないかと思える造りになっていた。
ここに入れられた人間は脱出不能。崖から落ちたら、おそらく生きて戻ることはないような気がする。
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