表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
326/355

第21章 5話

 私たちはうしろを振り返らずに全力で走った。戦ったところで勝てる相手ではない。後ろにいるのはあの勇者メルビル様なのだから。は、早く撤退しなければ全滅だ……。


「メ、メルビル様って『空島ダンジョン』の攻略に向かっていたはずよね?」


「そうね。イムレア様やロイス様の姿はなかったわね……。一体何が起きているの!?」


 私たちの姿は見つからなかったのか、逃がしてもらえたのかはわからない。それでも、今はとにかく撤退だ。少しでも早く逃げればそれだけ生存率が高まるのだから。


「み、みんな! 聞いて! メルビル様が裏切ったわ。先生たちがみんな殺されてしまったの、は、早く逃げるわよ」


 二階層までコボルトがいなかったことで、生徒たちはどこか安心しているというか、油断をしてしまっている。はじめてのダンジョン訓練ということでどこか緊張感がない。


「はぁ? 何をいってるんだよアリサ。ここにメルビル様がいるわけがないだろう、それに、勇者様がいるなら、なおのこと安心じゃないか」


「ち、違うの! メルビル様は先生達を……」


「あー、メルビル様だ」

「本当にいたのか。こんなところで勇者様に会えるなんて」


 ヒゥッ! 私たちのすぐ後ろから足音が聞こえる。ゆっくりとした足どりで、全くといって急いでいない。まるで、お前らなんかいつでも殺せるのだと言わんばかりに。


「メ、メルビル様……。な、何故……」

「ルーシー、隠れるわよ」


 火弾(ファイアボール)


 それは見たたけで、私たちの知っている火弾(ファイアボール)という魔法のそれではなくて、ダンジョン内をとても明るく照らすと、一気に全てを焼き払っていった。僅か一発の初級魔法で……。


「み、みんなが……」

「も、もう終わりね、ルーシー」


 初級魔法とは思えない大魔法を放ったメルビル様は、私たちを見ることなく、再び三階層へと向かってゆっくり戻って行く。


 見逃されたのか!? それとも殺すまでもないということなのか……。それでもこれは生き残る千載一遇のチャンスだ。私たちは、セントポールへこのことを伝えるまで死ぬわけにはいかない。


「ルーシー、行くわよ」

「う、うん、アリサ」


 私たちは焼け焦げる残骸の中、なるべく何も見ないように、そして鼻をつまみながら逃げるように一階層へと向かっていった。一瞬で学園の生徒が先生がやられてしまった。目の前で起こったことだけど何もかも信じられない。いったいトリーニ山ダンジョンで何が起こっているのかすら想像すらできない。


 私とルーシーは休むことなく走り続け、ようやくセントポールの南門が見える場所まで辿り着いていた。全力で走っていたため、息を整えることもできない。


「お、おい、学園の生徒だな。そんなに慌ててどうしたんだ。後ろからは魔物の姿は見えない。安心しなさい」


「ト、トリーニ山ダンジョンにいって……いた」

「ゆ、勇者メルビル様が……」


 ルーシーと一緒に説明しようと思ったんだけど、頭が働かないし、息が苦しくて上手く説明できない。早く説明しないといけないのに言葉が出てこない。


「今日、トリーニ山ダンジョンに行った学園の生徒か。ダンジョンで何かあったんだな。ゆっくり息を整えてからでいい。何があったのか話なさい」


 門番の人は隣にいた同僚に水を持ってくるように伝えていた。あー、喉がからっからで声を出すことも難しい状態なのだと気づかされた。


「ダンジョンの方をとても気にしているね。ゆっくりでいい、何があったのかを話してくれるかな」


 水を飲んでようやく落ち着いた私たちは、トリーニ山ダンジョンで起こったことを説明した。


「トリーニ山ダンジョンに異変が起きています。三階層に勇者メルビル様がいて、先生たちは、み、みんな、勇者様に殺されてしまい、学園の生徒も魔法で……」


「勇者メルビル様だと!? それは、本当なのか。勇者パーティが何故」


「い、いえ、私たちが見たのはメルビル様だけです」


「わ、わかった。取り急ぎ、この件をすぐに領主様に伝えよう」

「私は冒険者ギルドへ連絡をしてまいります」


 説明が伝わって安心したのか、そこで私の記憶は途切れてしまった。緊張と恐怖からギリギリ保っていた心がパンクしてしまったのだと思う。しかしながら、次に私とルーシーが目覚めたのはもっと最悪な状況だった。


「た、助けてくれー!!」

「火が、火が、体が燃えてるんだ。水を掛けてくれ!は、早く……」


 阿鼻叫喚の光景が映し出されていた。ここは地獄か!? 轟音と共にセントポールを守る擁壁が崩れ落ちてきた。擁壁はそのほとんどが崩れ落ちている。さらに街の中では至る所で火災が発生し、煙で少し先すら見通せない。


「ゴホッ、ゴホッゴホ」

「ルーシー、その煙を吸ってはいけないわ! ハンカチで覆って」


「アリサ、あ、あれを見て……」


 それは、トリーニ山ダンジョンの方角。丘の上には勇者メルビル様の姿があった。


 この後、私たちを含む数名の人が奇跡的に生き残ることが出来た。私たちが助かったのは偶然門の近くにいたからだと思う。ほとんどの人達は火災と煙でやられてしまったに違いない。生存者は学園都市にいた約三万人もの中からたった数名だった。


 これが私の知る勇者メルビルの裏切りに関しての全てだ。メルビルについては、ダンジョンマスターに操られているのではとの見解と、元々、ダンジョンマスターだったのではないかとの意見に分かれているが結論としてはまだ何も判明していない。この日から人類はダンジョンだけでなく、勇者メルビルに対しても注意を払わなければならなくなったのだった。

続きが気になった方は、ブクマやポイント評価を頂けると作者のモチベーションアップに繋がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ