第21章 4話
三階層まで様子を見に来た引率の先生と、昨日観察した二名の生徒は、階段付近でぐっすり寝ている。残りは二階層にいる生徒のみか。
二階層にいる生徒には、全員生きたまま『空島ダンジョン』に移動させる予定だ。ダンジョンポイントを取得しづらい弱点は解消していかなければならない。
「お、おい。誰か戻ってきたみたいだぞ」
「……先生、じゃないわね」
「知らない人……だね」
「先生やルーシー達はどうしたの?」
「あ、あなたは誰ですか!?」
「僕? 僕はダンジョンマスターだよ」
「ぜ、全員、戦闘体勢!」
「なっ! ダンジョンマスターですって!?」
「ここは解放ダンジョンのはずだろう!」
「逃げてきたに違いない。だって、先生達が簡単にやられるわけないもの。三階層まで押し返して挟み撃ちをするよ」
「挟み撃ちねぇ。対戦する相手の力量ぐらいは感じられないと長生きできないよ。先生から教わらなかった?」
僕は魔力を少しづつ解放していく。こう見えて魔力の質と量には自信があるんだよね。
「な、なんだ。この息苦しさと圧力は……」
「わ、わたし、う、動けない。た、たすけ」
まぁ、彼らのレベルなんて一桁台がいいところだろう。レベル差がありすぎるのだから、僕の強さを理解できないのもしょうがないのかもしれない。
捕獲した後も、大人しく従わせるためにも力量の差は、はっきり見せておいた方がいい。ドロシーもその方が楽だろうからね。
「こ、こないで……」
一人、一人、ゆっくりと近づいては顔を覆うように麻酔の空気を吸わせていく。周りの生徒からは僕が魂を吸いとっているかのように見えているだろう。
勇者候補の学園だけに、数人は動けるかもとか思ったけど、全員微動だに出来ないようだ。逃げないので楽と言えば楽なんだけど……。どうやら別の問題も出てくるようだ。
「ひ、ひぅ……や、やめて」
女の子の前に立つと、座った体勢のまま床には水たまりができている。
「お漏らしか……。まったく、勘弁してもらいたい」
着替えを用意するのもダンジョンポイントなんだからね。まぁ、しょうがない。今は恐怖を与えていくことに重点を置こうか。
「次に死にたい奴は誰だ? もう少し優秀な生徒なのかと思っていたけど、全くもって期待はずれだな」
「や、やめて、お、お願い……します」
そこからは、もう諦めてしまったのか、絶望的な表情で自らの死を受け入れてしまっているようだった。いや、死んでないんだけどね。これから君たちには、家畜としての何もない人生が待っている。
「街に戻す人員は二名ぐらいでいいか。一人だと信用してもらえないかもしれないからね。さて、誰を戻そうか」
闇の門に先生や生徒を入れていきながら考えてみたけど、このレベルなら誰を戻しても大した影響はなさそうだと判断した。とりあえず、最初に観察したあの二人でいいか。誤差の範囲だけど、一応優秀な生徒ということみたいだし、生き残りとしてはありかもしれない。
◇◇◇◆◆
目を覚ますと、周りに先生達の姿はなくて、すぐ横にはルーシーが倒れていた。場所は、階段があるからきっと三階層に続くところのはず。
「ルーシー、しっかりして!」
「ふぇっ、こ、ここは? ダ、ダンジョン! アリサ、私たち一体!?」
「わからないの。先生達の姿もないし、とりあえずは二階層に戻りましょ」
「ちょっと待って。あ、あれって、勇者メルビル様じゃない?」
メルビル様は、ストーレン先生の首を片手で掲げるように持っていて、先生はぐったりとまるで体に力が入っていない。そして、投げ捨てるように地面に放り投げるとストーレン先生はピクリとも動かなくなった。
「ストーレン先生っ!!」
「いやぁぁぁぁ!!!」
よく見ると、他の先生方も倒れている。全部、メルビル様にやられたに違いない。このままだと全滅してしまう。いや、その前にこの事を早く街に伝えなければならない。
「ルーシー、先生達は助からない。逃げるわよ。この事を早く街に伝えないと」
「逃げるって……無理だよ」
ルーシーの足は、ガクガクに震えていてまるで力が入っていない。
「しっかりして!」
時間がない。私たちが生き残るには、とにかく逃げるしかない。私は未だにストーレン先生を見ているルーシーの頬を思い切り平手打ちした。
「ッ! な、何をするの!?」
「いいから、早く立ち上がって。あなたが動けないというのなら、せめて時間稼ぎをしなさい。五秒でも出来たら、その隙に何人か逃げれるかもしれない」
「で、でも……」
「それが嫌なら、今すぐ立って私と一緒に二階層へ行くわよ!」
「う、うん。わかったわアリサ」
メルビル様はダンジョン側の人間だったのだろうか。もしくは、ダンジョンマスター……。
よくわからないけど、今はとにかく早く外へ、この情報を持ち帰らなければならない。このままではセントポールの街が危険になる。
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