第20章 15話
「調べものとは他のダンジョンのことでしたか。しかしながら、案内人を限定して調べることはちょっと難しいです。そこは、スケアクロウに地道に調べさせるしかないかもしれません」
この『空島ダンジョン』なら意外と簡単に見つけられるのではないかと思っていたのだけどそうは簡単にはいかないようだ。
「そっか。案内人ってあまり前に出てこないもんね。確かに調べるのはそこそこ大変かもしれないな」
「それでも、最近できたダンジョンに絞り込んで探して行けば割と早く発見できるかもしれません。セントポーリアを調べながら並行して進めていきますね」
「うん、ありがとうドロシー。それから、僕たちのことなんだけど一か月ほどこの世界に滞在しなければならないんだ」
「えっ! 一か月で帰っちゃうんですか?」
「いや、ずっと居られても困るでしょ?」
どうやら一か月間の仮住居として住まわせてもらうことは何となく許可されているようだ。
「困りません。むしろ生存確率が上がるし、寂しくないし……本当に帰っちゃうんですか?」
思いの外、ドロシーの信頼を得られたようだ。今まで女の子一人でこの緊張感の中で頑張てきたのだから辛かったのだろう。仲間だったリリアさんも急にいなくなってしまった訳だしね。
「大丈夫だよ。イムレアちゃんだっているし、この一か月でボスモンスターや配下のモンスターもがっつり増やしていくつもりだから」
「そうですね、辛いことがあったらイムレアで遊んで寂しさを紛らわします」
「そ、そうだね」
ドロシー、イムレアちゃんで遊ぶって何をどうやって遊ぶのだろう。と、とりあえず、二人が仲良くなることを祈ろう。
「それでは、早速ですがセントポールの近くまでダンジョンを移動させますね。移動までの時間はおおよそ五時間程度と思われます」
「それなりに時間が掛かるね。それじゃあ、僕はメルビル君の様子でも見てこようかな。セントポールを爆破するのに彼を上手く利用したいからね。何かいい策がないか考えてみるよ」
「ゆ、勇者相手に余裕過ぎるタカシ様が眩しいです」
「余裕があるのは確かだけど、下手に成長させられないし倒すにしても慎重にいかざるを得ない。面倒くさい相手だよ勇者は。セントポールに到着する頃になったら呼びに来てもらっていいかな。ウンディーネに伝言をお願いすれば僕のところまで来てもらうようにしておくね」
「わかりました。ウンディーネちゃんよろしくお願いします」
相変わらず、ジルサンダーに乗ったまま楽しそうにしているウンディーネは話をちゃんと聞いていたのか、ドロシーの言葉に小さな手を上げて返事をしていたので大丈夫そうだ。では、メルビル君の絶望した姿でも見てこよう。
ぶっちゃけ低レベルでも空島からダイブして地面に落ちても勇者なら何とか助かってしまうんじゃないかとか思えるんだよね。もちろん本人にそこまでの度胸は無いと思うんだけど。理想的なのはイムレアちゃん同様にダンジョンのポイント源として牢屋に確保してしまうこと。下手に討伐を考えるよりも勇者対策としてはベストだと思われる。
ダンジョンを入口の方へと逆走していくと割とすぐに到着してしまう。イムレアちゃんポイントが貯まって来たらダンジョン造りも考えていかないとならない。でもドロシーに魔力操作とか時間が掛かりそうだしな。手っ取り早く階層状態を変更して難しくした方が無難かもしれない。
さて、そろそろスキルで姿を消しておこう。
スキルエレメントで風人からの透明化スキル発動。
外に出ると、気球があった場所から少し離れたところで膝を抱えるようにして下を向いている勇者メルビル君を発見した。気球から離れているので、直すことができないぐらいには壊れてしまっているのを理解しているのだろう。よくやったウンディーネ。
「僕はこれからどうすればいいんだ。気球は壊れていて地上に戻ることもできない。食料もほとんど残っていないし、仲間も全員失ってしまった……」
ほどよい絶望が伝わってくる。この年齢では見せることのない哀愁が背中から溢れている。
「みんなの仇をとりにダンジョンへ戻るべきか……でも、僕が行ったところで通用するレベルではない。それでは無駄死にだ。僕は勇者なんだから生き残らなければならない。何とかして戻らなければ……。誰が気球を壊したというんだ。僕たち以外この空島には誰もいなかったというのに!」
ダンジョンに特攻される方が対処に困ってしまうところだったが、どうやら帰る方向で考えているらしい。さて、どうやって更なる絶望を与えてあげようか。セントポールの住民から怒りの矛先を向けるように社会的に抹殺してあげたい。
「こうなったら、死ぬつもりで気球の切れ端を使って飛び降りるしかないのだろうか……」
火弾
「あー、な、なんで! 気球が、気球が燃えてしまう……」
慌てて消火しようと懸命に叩きながら火を消そうとしていたメルビル君だったが、火の勢いを止めることは叶わず、もうどうにもならない燃えカスとなってしまった気球を見て薄っすら涙を流していた。
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