第20章 12話
とりあえず、イムレアを回収するために居住区からダンジョン階層へと向かうことにしたのたが、このダンジョンは調べものをするのにとても都合がいい。ドロシーからも話を聞くとして、無理のない範囲でこの第二世界を調べてみるのもいいかもしれない。
さて、メルビル君が再びダンジョンに入ってくるには、それなりの気持ちの整理や覚悟が決まらない限り難しいだろう。
きっと、彼の心の中は逃げることでいっぱいのはず。気球では地上に戻れない。どうやったら帰れるのかで頭がいっぱいに違いない。
そんなことを考えていたら倒れているイムレアの周辺で飛び回っているウンディーネを発見した。歓喜の踊りはしていなかったが、とても楽しそうに飛び回っている。
「ウンディーネ、任務お疲れさま。できることならメルビル君の絶望した表情を見たかったね」
それについてはウンディーネも同意のようで残念だという気持ちが伝わってくる。考えることは一緒だったようだ。
「イムレアはどんな感じ? 死んでないのはわかるんだけど、結構ヤバい感じかな?」
威力を落としたとはいえ、雷が体を突き抜けているだけに、胸を中心に広がる火傷痕や精神的なショック症状がないかが気になった。見た目には死んでるようにしか見えない。メルビル君が死んだと思ったのも頷ける、やられようだった。
「あれっ、ウンディーネが少し回復させてたのか。ありがとう、気が利くね」
どうやら、無意味に飛び回っている訳ではなくイムレアを少しだけ回復をさせていたらしい。やはりできる精霊さんだ。
「それじゃあ、イムレアを回収して居住区に戻ろうか。ドロシーにジルサンダーも紹介しないとね」
まだピクリとも動かないイムレアを闇の門に入れると再び居住区に向かって歩き始めた。
居住区に戻るとドロシーが嬉しそうに造りたての牢屋を見せたくて、うずうずしているようにみえる。この子もあれだな、ポイントをちゃんと稼いだことがないせいか、浪費傾向にあるかもしれない。どこかティア先生の雰囲気に近いダメさを感じる。
「タカシ様、牢屋の用意が整いましたよー」
「ちょっと、一人用にしては広すぎない?」
「大丈夫です。ポイントいっぱい増えましたから!」
とても嬉しそうに牢屋を紹介するドロシーはとてもダメな子にみえる。
「シャワールームにベッドまで付いてるなんて、随分と豪華な牢屋をポイント交換したんだね……」
「長い付き合いになりますからね。死んでもらっては困ります! それに一応女の子ですから身なりは綺麗にしといてもらいたいじゃないですか」
なるほど、確かに自殺をされては困る。必要最低限度の生活を保証してあげることで、末長くポイントを頂こうということか。
「魔力を奪う足枷もポイント交換しました。あの魔女っ娘を出してもらってもいいですか」
「うん、了解。魔力を奪うアイテムなんてあったんだね」
「牢屋をポイント交換すると、関連するアイテムが交換できるようになりました。他にも感度を上昇させる薬とか、爪をゆっくり剥がす器具とか……」
「い、いや、他のアイテムのことは別にいいよ。じゃあ、牢屋にイムレアを出すから、あとはよろしく頼むね」
「お任せください。彼女は大切なパートナーになりますからね。ほどよい絶望とあきらめを理解してもらおうと思います!」
僕はベッドの上にイムレアを出すと、ドロシーとバトンタッチして会議室の方へと向かおうとしたんだけど、一緒にジルサンダーも出てきてしまった。
「あらっ、この可愛い動物は何ですか?」
「あー、えっと、一応僕の仲間なんだよ。名前はジルサンダー仲良くしてもらえるかな」
「もちろんです!」
「それじゃあ、僕たちは会議室の方に行ってるね」
メルビル君が再び来ることはないと思うけど、一応は見張りは必要だろう。ウンディーネもジルサンダーの上に乗っかりとても仲良くやっている。このキメラ仲間にしてしまっていいのだろうか、ちょっと悩ましいところだ。
「悩んでもしょうがないか。ウンディーネ、ジルサンダーの教育係を任せる。おかしなところがあったら容赦なく罰してくれて構わない」
大丈夫だと思うよー。とのことなので、まるっとウンディーネに丸投げでいいだろう。
それからしばらくして、女性の叫び声が聞こえてきた。
「きゃああああー!!!!!」
あー、意外と早く目覚めたみたいだね。牢屋の方から、魔女っ娘イムレアちゃんの叫び声が響いていた。
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