第20章 11話
「あ、あのー、タカシ様、あなたは神ですか?」
「いや、なんで様つけてるの。タカシでいいよ。それから同じダンジョンマスターって話したよね?」
ドロシーからの羨望のまなざしがとても痛い。彼女からしたら、ダンジョンの危機を救ってくれたヒーローなのだろう。
しかしながら僕からしたら、一か月間の宿を得るための手段の一つだったんだけどね。思いの外パーティのレベルが低く上手くいってよかった。
このまま、メルビル君が撤退するなら逃がしてもいい。勇者に中途半端な攻撃をすると変に成長させてしまう可能性がある。
とはいってもここは空に浮かぶ様なので逃げられない。帰るには気球のような物が必要だろう。それは、たったいまウンディーネが破壊し終わったと思われる。
ダンジョンカメラには入口でダンスをしているウンディーネが映し出されている。おそらく任務完了のダンスなのだろう。
「あ、あの子は何か楽しいことがあったのでしょうか?」
「そうだね。一仕事終えた喜びのダンスかもしれないね」
「そ、そういえば、魔法使いの女の子はまだ生きてますよね? まだ討伐のアナウンスがありません」
「少し弱めに雷を落としたんだ。気絶してるだけだと思う」
「どうして、そんなことを? はっ! ま、まさか、タカシ様はあの魔女っ娘が好みのタイプなのですね!」
「ち、違うから!」
ドロシーが変な勘違いをしているようだが、これは、ドロシーがここで生き残りながらダンジョンポイントを貯めていくための戦略でもあり、僕が一か月間のんびり過ごさせてもらうための手段でもあるのだ。
「だ、大丈夫です。ドロシーは大人ですから目をつぶることができますし、後ろを向いていますから」
近くにはいて、耳は塞がないということだろうか。顔を真っ赤にしながらも興味はあるようだ。
「あの女の子は拘束して、ダンジョンポイントを稼がせてもらおうと思ったんだ。曲がりなりにも勇者パーティの魔法使いなんだ。そこそこポイントが貯まりそうでしょ」
「そ、そうだったんですね。私はてっきり、その、よ、夜のお供的な……意味かと」
そんなことは考えてはいない。ティア先生達が悲しむだろうからね。
「そんなことより、メルビル君が撤退をはじめたようだよ」
「お、おお! や、やりましたね! 遂に『空島ダンジョン』は勇者パーティを追い返したのですね」
「へぇー、このダンジョンは『空島ダンジョン』というんだね。そのままというか、分かりやすいというか」
「はい、空に浮かぶ島はここにしかありませんからね」
「それにしても、よくこんな厳しい状況で生き残れたよね」
「そこは何と言いますか、仲間に恵まれた感じですね」
どうやらこの『空島ダンジョン』、侵入者が来たのはメルビル君達が初めてだったらしい。当たり前だが、そこまで文明が発達していないと思われる第二世界なので、空に浮かぶ島に来れる訳がない。気球という手段だってかなり危ない賭けだったのではないだろうか。
「なるほど、小動物を飼っていたんですか」
「最初は空島にいた小動物を討伐してポイントを稼いでいたのですが、あっという間に駆逐してしまいまして……」
居住区の小部屋にはウサギやネコが飼われており、おそらくこれがダンジョンポイントになっていたのだろう。
「これらの動物は、リリアさんから?」
「そうです」
「それにしても、リリアさんがそこまで面倒をみる理由がわからないな」
「交換条件です。私は空から大地を見おろすことができるので、大きな街や大型ダンジョンの情報などを伝えることができます」
「なるほど、個々のダンジョンでは調べられない地形や街の情報を提供していたんだね」
途中からカモメのジョナサンとの間に、相互不可侵の線を引かなければならなかったと言っていた。そのあたりで、ジョナサン側の情報をドロシーにとらせていたのかもしれない。
「そんな感じです。『空島ダンジョン』は特殊なダンジョンで下の声を拾えるんですよ。望遠鏡みたいなもので覗けて、声も一緒に聴けるんです」
何その不思議ダンジョン。ダンジョンに諜報特化タイプとかあるの……。一か月間暇だし、ワインボトル先輩でも探そうかな。
「そろそろメルビル君が壊れた気球を見て絶望している頃かな。僕はイムレアを回収してくるとしよう」
「あっ、では私は居住区に新しく牢屋を造っておきます」
「うん、よろしくね」
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