第20章 7話
空に浮かぶ島にはどう向かうか。僕だけだったらスキルエレメントで飛んでいけばいい。ウンディーネも一緒に飛んでこれるだろう。ふむ。
「ジルサンダー、ここでお別れだ! 元気に暮らすんだぞ」
アウ? アウッ! アウォーン!!
ウンディーネからは「えっ? こんなところで一人にされたらさみしいよ」というジルサンダーの言葉が思念で僕に届けられている。ウンディーネ的にも可哀想だし助けてあげなよと言われている。何だかさっきも草原を二人で駆けまわってたし、二人はどこか気が合うのかもしれない。
「ウンディーネ、大変だけどさっきみたいにジルサンダーを掴んだままであの島までいける?」
首を横に振っている。どうやらそれは無理なようで、10メートルぐらいが限界なようだ。いくらジルサンダーが小さくなったとはいっても島に向かう途中で重さに耐えきれなくなり落としてしまうんだろう。ジルサンダーが小さく震えている。
「しょうがない。ウンディーネとジルサンダーは僕の闇の門へ。あの島についたら出してあげるね」
スキルエレメントで『風人』となった僕はゆっくりと空を登っていく。上から見るとこの草原がかなり広いことがよくわかる。草原の先には海が広がっており、その反対側には村のような集落を見ることができた。どうやら近くには大きな街はないようだ。何というか、ここまではとても平和なイメージしかない。ジルサンダーを草原に置いてきたとしても、村で番犬代わりに飼われてそれなりに幸せに暮らしそうな感じすらする。
さて、島には普通に入れるのだろうか。現在、空に浮かぶ島のさらに上空から様子を窺っている。特に罠っぽいものは見受けられない。島の周辺を囲うように山があり、すり鉢状に広がるようにして川や泉がある。そして、島の中心には如何にもな洞窟があった。ビンゴだ。あれはダンジョンで間違いないだろう。
「はいっ、到着したよ。出ておいで」
泉の周りには草花が生い茂っていてお弁当でも出せばピクニック気分間違いなしだろう。ジルサンダーものどが渇いたのか泉に顔を突っ込んでゴクゴク飲んでいる。泉にも魚がいて、ジルサンダーから離れるようにして散っていく姿がこちらからもはっきりと見えた。
ウンディーネからあのダンジョンに行くの? と聞かれる。
「ウンディーネ、やっぱりあれはダンジョンなの?」
どうやらダンジョンの方から少なからず魔素の流れを感じたそうだ。つまり、誰かが最近あのダンジョンから出入りしたということらしい。
「ということは、ダンジョンマスターが生き残っている可能性がありそうだね。ジルサンダー、もう休憩は大丈夫か? ウンディーネも平気? よし、じゃあ第二世界のダンジョンマスターに会いに行こうか」
ダンジョンに近づくとそれっぽい雰囲気がぐっと高まってくる。ところが入口が見えてきたところで予想外なものが見えてきた。上空からは見えなかったのだけど、何というか気球のような乗り物が入り口の側に置かれていたのだ。少し大きめの籠は3人から4人乗りといったところか。そして、周辺には複数の足跡が残されていて、その全てがダンジョンへと向かっている。
「これって、ひょっとして現在進行形で攻略されているってことかな? 誰かが遊びに来ているとかじゃないよね?」
ウンディーネが僕を引っ張るように急がせる。気球の籠の中には予備の剣や道具袋のようなものがある。冒険者の持ち物だと思っていいだろう。
「そ、そうだね。急いだほうがいいか。勇者が相手だと思うと気が重いんだけど。中にいるのが必ずしも勇者とは限らないしね。ジルサンダー、お前はもう一度闇の門に入っててくれるか」
この中で最弱なジルサンダーはダンジョンモンスターにすら殺られてしまいかねないし、正直、勇者とかいたら気にしている余裕がない。ジルサンダーも迷ううことなく僕の闇の門の中へと入っていく。戦って成長したいとかの気持ちは一切ないようだ。まぁ僕がジルサンダーだとしてもいきなりレベルの高そうなダンジョンや勇者がいるかもしれないところへチャレンジする気にはなれない。
「『風人』&スキル透明化を使って奥まで行くからウンディーネも僕の頭の上に乗ってて。最短で最奥へ。目標は居住区にいるダンジョンマスターの場所だよ」
ウンディーネからは念のためと質問が入る。ダンジョン内での行動についてのようだ。
「うん、戦わずに突っ切るよ。途中で冒険者パーティがいてもスルーして先にダンジョンマスターに会おう」
それでは、勇者いませんように! そしてこのダンジョンにドロシー、若しくはワインボトル先輩がいますように。
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