第20章 6話
魔法陣が完全に動き始めてしまった。しかも、変な触手が大量に出てきて攻撃までしてくる。もう止まらそうだし、ここまできたら壊してしまった方が良さそうだ。
カイトさんごめんなさい。これはもう作戦に修正が必要そうです。
「ウンディーネ、そっち側は触手が多いから僕の方へ」
ウンディーネが右手でジルサンダーを掴みながら飛んでくる。後ろからは大量の触手がこれでもかと追いかけてきており、どうにも気持ちが悪い。
火弾×20
とりあえず、一通り出てきた触手を一網打尽にしたところで、僕の頭の上にウンディーネ、左肩にジルサンダーが乗った。
ジルサンダーがぬいぐるみのように目が大きく可愛いらしくなっている。さっきまでの偉そうな態度が嘘のように大人しい。生意気な性格も吸われてしまったのならいいのにね。
安心したのも束の間、すぐにウンディーネが警戒するように僕に伝えてくる。しょうがない魔法陣、先に壊すか……。
雷撃!!
ちょっと強めに触手が出てきた魔法陣の中央あたりを目掛けて地面ごと抉りとるように魔法を撃った。こうすれば魔法陣も消えて無くなるだろう。
と、思っていたんだけどね。
足下がピカッと光ったかと思ったら、突然目の前の景色がグラッと揺れた。
僕が今立っているのは転送する側の地面な訳で、つまり何というか考える暇もなく、僕たちは第二世界へ転送されてしまっていた。
「うぇーっ!! 転送されちゃってるよ!」
落ち着いて、とウンディーネからの声が届いてきているが若干パニックになっている。気のせいか左肩も重いしって、あぁ、これはジルサンダーか。
一面に広がる大草原。遠くにはかなり大きいと思われる山脈が壁のようにそびえ立っている。そして、空に浮かぶ大きな島……。
ここが、第二世界……。
「見た感じではダンジョンっぽいのとか、勇者的なパーティはいなそうだけどさ。これ、ちゃんと帰れるのかな」
スキル『転送』について、もう一度詳しく確認をしてみる。
スキル『転送』
膨大な魔力と引き換えに関連する世界を渡ることができる。魔法陣は二つのパターンで描くことができ、一定の魔力が溜まるまで発動しないものと、膨大な魔力をその場で使用して発動させるものに分かれる。スキルは連続使用することはできず、再び発動させるには1ヶ月程度の期間が必要となる。
つまり、僕たちは1ヶ月この第二世界に居なければならないらしい。
「とはいっても、この魔法陣描いたのメルキオールだよね。ダメ元でスキルを使ってみようか」
スキル『転送』!
僕の掛け声と共にスキルが魔法陣を描こうとするも途中で掻き消えてしまった。魔力量的には問題なく使える量を僕は持っているし、賢者の杖の恩恵もあるのでかなり余裕なはず。
どうやら、僕が使用するのもダメなようで、転送された者が再び使用するのに制限がかかるようだ。
アウ、アウ、アウン!
「随分可愛らしい声で泣くようになったじゃないかジルサンダー」
ウンディーネを背中に、草原をとても気持ち良さ気に走り回っている。君たちは切り替えが早すぎないか?
「みんなに心配をかけてしまうな。1ヶ月戻らなかったら、さすがにティア先生も暴走してしまいかねないよね」
連絡がとれないのだからしょうがないのだけど、ここが第二世界なのであればダンジョン協会が捕捉してくれるかもしれない。そう考えると目指すはダンジョンか。
草原には風が吹いて程よく気持ち良さそうだ。ここは少し落ち着いて寝転がって考えてみるか。
横になって上を見上げると大きな青空が広がり雲がゆっくりと流れていく。そして、浮かぶ島……。
「空に浮かぶ島……えーっと、ドロシーだっけ……」
リリアさんに頼まれたダンジョンマスターの友人ドロシー。空に浮かぶ島のダンジョンと言ってたはずだ。あの島にいるかはわからないけど、何も情報がないのだからとりあえず向かってみようか。
「あっ、ちょっ、やめてよ。くすぐったいって」
いつの間にか戻っていたジルサンダーが僕の顔を舐めまくっていた。お前、本当にあのジルサンダーなのか。
「ウンディーネ、ジルサンダー、1ヶ月ぐらいこの世界で生きていかなければならなくなった。とりあえず、最初の行動目標なんだけど。あの空に浮かんでいる島に向かう」
空を見上げても浮かんでいる島は見える範囲ではあの島だけ。あれがドロシーのいる島だといいんだけどね。
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