第20章 1話
やはり我が家は落ち着く。帰ってくるとなんだかホッとする。高橋さんのボート小屋の奥にはヘリポートを整備したので楽でいい。近隣で住んでるのエディだけだしね。
「タカシさん、お帰りなさい」
「ウンディーネのレベルは上がったかしら?」
「ただいま。ウンディーネはそうだね、とても頑張ってたよ。もう一人でも安心できるかな」
ウンディーネが定位置であるティア先生の胸元に飛び込むと、しばらくして顔だけ出して『大阪ダンジョン』の報告を終えたようだ。
「レベル23なら確かに安心できるわね。ウンディーネもタカシ様のお役に立てると喜んでますわ」
「そういえば、ヨルムンガンドちゃんとレヴィは?」
「あの二人は特訓の最終調整といったところでしょうか。ヨルムンガンドちゃん頑張ったのでちゃんと褒めてあげてください。とりあえず、新魔法を見に行ってみますか?」
どうやらヨルムンガンドちゃんが新魔法を覚えたようだ。有言実行の五歳児恐るべし。場所は二階層の水の神殿。そう、ヨルムンガンドちゃんのボス部屋だ。
神殿の周りは妙な靄が掛かっているように何だか重苦しい。なんか近づいたらあんまり良くないような気がするんだけど大丈夫だろうか。
「タカシさん、神殿の周りの靄を風で吹き飛ばしてもらってもいいですか?」
「う、うん。了解」
風の魔法で一気に換気していくと重苦しい空気は霧散して消えていった。すると魔法に気がついたのか、神殿からヨルムンガンドちゃんとレヴィが一緒に出てきた。笑顔のヨルムンガンドちゃんに対してちょっと疲れた表情のレヴィとその顔は対照的だった。
「マスター、遅かったな! あっという間に新魔法完成しちまったぞ」
「ヨルムンガンドちゃん、魔法が完成したのは昨日ようやくでしょ。調整も含めてまともに成功したのはついさっきじゃない」
呆れ顔のレヴィにあっさりと窘められる五歳児。すぐにバレる嘘を吐くあたり五歳児ならではであるが、この五歳児はその外見とは裏腹に強いボスモンスターだ。しかも結構レア級のモンスターなのだ。そのヨルムンガンドちゃんが必殺技と言っていた魔法が完成したのなら相当なもののはずだ。疲れ顔のレヴィを見てもそれなりのものと思われる。是非とも僕にも教えてほしい。というか、一度見れば大体のものならば再現できるかな。
「どんな魔法なの? お披露目してよヨルムンガンドちゃん」
「そうだな、マスター実際に受けてみるか?」
強気なヨルムンガンドちゃんらしい提案だ。必殺技の特訓を僕の見えないところでやっている時点で認めてもらいたいという五歳児の承認欲求に溢れている。特訓に付き合ってくれたレヴィとレイコさんにあとでちゃんとお礼をするんだよ。
「場所はここでいいの? 神殿に行こうか?」
「そうだな、神殿の方がいいかな。場所を移そうぜ」
チラッとレヴィとレイコさんの方を見てみるけど、なんとも微妙な表情をしている。そんなに危険な魔法なのだろうか。反射とかしたらヨルムンガンドちゃん怒りそうだしな。まともに受けない方向で様子を伺おう。流石にヨルムンガンドちゃんも殺す気で魔法を撃ってこないと思いたい。
ヒントとしては、あの重苦しい靄だね。ヨルムンガンドちゃんは大海蛇という種族だから水、風、そして闇属性が割かし得意だったはずだ。あの靄を考えると風属性が怪しい。とりあえず土属性できっちり受けてみようか。僕の土壁は透明で魔法もよく見えるからね!
「じゃあ撃つぞ! 避けたらダメだからな」
「僕自身はここから動かないけど、魔法は使わせてもらうよ」
避けたらダメとかそういうとこが子供っぽいぞヨルムンガンドちゃん。悪いけどしっかり防御させていただこう。防弾ガラス並みの強度だから風とか通さないけどね。
「よっし、死ねぇー!!!」
毒霧玉!
何故か殺しに来ているヨルムンガンドちゃん。何か悪いことしたっけかな。とりあえずこの五歳児が本気なのかは疑わしいところではあるが、どうやら殺す気で撃たれた魔法のようだ。
「こ、これは、あれっ? ポイズンボールっていった?」
土壁!
毎度おなじみ水弾と似たような球体の魔法が真っ直ぐに僕目掛けて飛んでくる。風属性ではないのか!?
その球体は防弾ガラスと同程度の強度を持っているはずの土壁の防御を突き抜けてくると、パッカーンと割れて玉の中から霧状の靄が大量に出てきたのだった。さっきの靄はこれが原因か。どうやら体にまとわりつくように粘着性のある靄のようだ。名前からして毒のようだから一応避けているんだけどね。
まぁ何というか、集団との戦いにとてもとても効果的ないやらしい魔法であることはわかった。
「あっ、マスター。この魔法、空気感染で伝染していくから早く換気して全員に治癒をかけてくれよ。昨日は、レイコが倒れちゃったんだ」
化学兵器かよっ!
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