閑話 18
目が覚めるとそこは知らない場所で知らないベッドに寝かされていた。ここはどこだ。私は……確か、そうだ! 知らない男に口を塞がれてベッドに押し倒されたのだった。何か強烈な薬を打たれて気を失ったのだったか……。慌てて体を確認しようとして、ようやく自分の状態に気づいた。両手両足を拘束されており、舌を噛ませないように、また言葉を発せられないように口には猿轡のようなものまでされている。
私は拉致されたのか。一体誰に! 公爵派のものか。しかしながら私なんかを拉致して何の意味があるというのか。ま、まさか! 最終決戦の作戦を知る者が! そ、そういえば、あの時、私とそっくりの人間がいた。あの者に入れ替わられたまま最終決戦が始まってしまったら……アンジェリカ副師団長殿が危ない。
「フゴフガフグフゴッ!!」
「あらあら、朝からフゴフゴと元気ね。朝食を持って来たわ。猿轡をとるけど、あまり大きな声を出さないでくださいね」
声のする方に首を向けると騎士のような男と宙に浮く朝食と思われる器がある。女性の声だったはずだ。何故、男の騎士しかいない。そして皿が宙に浮かんでいるのは一体どういうことなのだ!
「あらっ、フゴフゴ言ってたから大きな声でも出すのかと思ってたけど意外と大人しいのね」
ま、まただ! この女性の声は一体どこから! 恐怖で声を出すことも出来ない……。わ、私はどうされてしまうのだ。
「はい、口をあーんって開けて。あーんっ」
見えない! 見えないのに食器と女性の声が近づいてくる。あぁっ、私の口の中が強引に広げられていく。白い液体とドロッとした形状の物がこれでもかと口の中を凌辱してくる。ま、また、変な薬なのかっ! 喉の奥に絡みつくような粘度で生臭い匂いが鼻につく。何なのだこの生暖かいドロドロの液状のものは……。
「どう? 美味しいかしら? 我が家の朝食の定番オートミールよ。最近はミルクがなかなか手に入らないから久し振りなのよ。ちゃんと味わって食べてね。ほ、ほらっ、溢さないの!」
私は混乱していた。目の前には宙に浮かぶお皿、スプーンでいっぱいに掬われたドロドロの液状のものが私の口を強引に押し広げるように入ってくる。う、うぷっ、な、生臭い! そして目の前に控えている男の騎士はそれをジーっと見てくる。私がこのドロドロを吐き出さないように見張っているのかもしれない。宙に浮かぶ食器。見えない女性の声。強引に口の中によくわからない生暖かいドロドロの液状物質を入れられる恐怖。そして私がそれを飲み干すのを腰に手をあてて、ただジッと見つめる男の騎士。あ、頭がおかしくなりそうだった。
「うちのオートミールはね、ミルクを入れて鍋で少し煮込むのよ。人肌ぐらいが一番美味しいのよね。ちょっとドロドロだけど悪くないでしょ?」
しばらくして私はまた気を失ったようだった。
どうやら拘束具が私の魔力はもちろん、体力も限界近くまで抑えているようだった。混乱して無意味に体力を消耗させられたのかもしれない。次回以降は気をつけねばならないだろう。気を失っている間に何をされるかわかったものではない。
さて、ここから逃げ出すにはどうすればよいのだろう。拘束具が付いている以上、癪ではあるがあの男の騎士の信頼を得て外してもらわなければならない。アンジェリカ副師団長殿を守るために早くここから脱出しなければならない。非常事態だ。ゆ、誘惑とかしてでもチャレンジすべき案件かもしれない。男の騎士に凌辱されながらも何とかして生き残り、この部屋を脱出する未来を勝ち取るのだ。
「あっ、お姉ちゃん起きたの? 遊ぼーよ」
考え事をしていたら、いつの間にか少女がこの部屋に来ているようだった。ん? 少女だと!? これはチャンスだ! 誘惑しなくても助かる可能性がでてきたのだ。何故この部屋に少女がいるのかわからないが、これは千載一遇のチャンスと言ってもいい。
「フゴフガフグフゴッ」
再び声のする方へと首を向けるもやはりそこには誰もいない。またかっ! い、いや今度は宙に浮かぶ女の子の人形がいた……。う、嘘だろう……。
「お姉ちゃん聞こえないの? 遊ぼーよ」
ま、まさか、この人形が喋っているのか!? ここは、化物屋敷なのか!?
そうして、私は今日何度目かになる失神をしたようだ。も、もうダメかもしれない。
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