第18章 12話
「フゴフガ、フグフゴッ!!」
何言ってるかわかんないけど、口を押さえている手を離したら、もの凄い声で叫び出しそうなのはわかる。アンジェリカさんが来たら面倒なので静かにしてもらいたい。アグノラは麻酔に耐性でもあったのだろうか……。暴れようとしているものの力はそこまで強くないようなので、片手で十分押さえらられている。いや、僕の力が強すぎるからだな。
「フガフガ、フゴッフゴッ!!」
フゴフゴ言われても困るんだよね。言わんとしていることは何となくわかるけどさ。でも、見つかってしまったからには申し訳ないけど大人しくしてもらおうか。
「レヴィ、どうやらこの娘をお持ち帰りしないと、この場をやり過ごすのが難しそうだ」
「うーん、そうですね。ここで変化の枠を使い切ってしまうのは、正直痛いところではありますが仕方ないでしょう。勿論、メルキオールに変化するのを第一優先にして、その時はこの娘を治癒漬けにした状態で使い物にならないようにして戻すしかないでしょうね」
「フゴッ!?」
「治癒漬けですか!? タカシ様が得意とする凶悪な治癒魔法ですね!」
アモナ姫もレヴィも僕の治癒をヤバい薬であるかのように言うのは止めてもらいたい。そもそも凶悪な治癒魔法って言葉の意味がわからないよね。一応治癒魔法って体に良いもののはずなんだ。僕のはちょっと変な成分が乗っかっちゃうだけなんだ。
「フガフガ、フゴッフゴッ!!」
それにしても全くフゴフゴうるさい娘だな。やはり少し静かにしてもらおうか。
治癒×3
「ふぎゅあぁぁぁ…………あぁん」
内腿を若干ヒクヒクとさせながら、アグノラは仰向けのままベッドに倒れた。体からは完全に力が抜けており、目は白目になってしまっている。流石にこれで動きはしないだろう。写真撮っておこうか迷うぐらいのインパクトある表情をしているし。も、もちろん死んではいない。これは治癒魔法なんだ。なんなら体の不調とかは完璧に治っていることだろう。
「ア、アグノラさん大丈夫なのでしょうか?」
「むしろ体調は万全かと。気を失っているだけなので何の問題もないです。お兄さまが本気を出したらこんなものではすみません」
「えーっと、じゃあ、レヴィには申し訳ないけど暫くの間、そのままアグノラに変化してもらってうまくやり過ごしてもらえるかな」
正直言って演技が苦手なレヴィを残すのはリスクも高いがここはしょうがあるまい。
「かしこまりました。アドリブで何とか切り抜けてみせます」
不安しかないよっ!
「では、私は本物のアグノラさんを抱えてタカシ様の闇の門に入っておきますね」
「念のため、身動きとれないようにアグノラの体を縛っておこう」
「次はメルキオールとキメラのいる場所ですね。タカシ様、どうかお気をつけて」
「うん、ありがとう。では行ってくるよ。レヴィも無理しないでね。今日は体調悪いふりしてそのまま寝ていればいいよ」
「はい、お任せください!」
その自信はどこから来るのだろうか。本当に不安しかないよっ!
メルキオール次第ではあるけど、あとでレイコさんとチェンジしてもらった方が無難かもしれないな。
最終決戦までまだ2週間近くある。このままずっとレヴィのままだと、普通にアグノラの降格処分とかもありえそうだ。せっかく手に入れたアグノラのポジションをもう少し上手に使いたい。
さて、北側に向かう前にカイトさんに連絡をしてみようか。あちらは順調だろうか。ティア先生は迷惑を掛けていないだろうか。水竜姉妹、最高戦力ながら全幅の信頼を寄せられないところがまた可愛らしい。
(カイトさん、聞こえますか?)
(タカシ君? はい。大丈夫ですよ)
(こちら、本日の任務が完了したので、これからそちらに向かおうと思っています)
(早いなぁ、さすがですね。こちらもメルキオールの居場所を突き止めたところです。タカシ君の到着を待ってから乗り込むことにします。それでは、研究施設のB地点で合流しましょうか)
(なるほどB地点ですね、わかりました。ではこれからすぐに向かいますね)
侯爵様から頂いた地図を確認しながら、僕は北側にある研究施設へと向かった。
メルキオールとは早めに決着をつけなければならない。奴さえいなくなればキメラはこれ以上は増えなくなるのだからね。
5月24日に集英社ダッシュエックス文庫より発売となります。
お楽しみ頂けたら嬉しいです!
引き続きWebの方もよろしくお願いします。




