第18章 11話
「ア、アンジェリカ師団長殿、お、起きてくださーい。太陽はまだ上ったばかり、ま、まだ午前中ですよー」
「あ、あれっ!? わ、私ったら、まさか寝てしまったというの!」
「ア、アンジェリカ師団長殿……」
「ちょっと待って、私は副師団長よ。とんでもない間違いをしないでアグノラ。あなたも寝ぼけているのかしら」
「も、申し訳ございません。す、少し疲れていたーのでしょうか」
セリフ棒読みのレヴィを見てアモナ姫が僕の方を向いて茫然としている。
何とか気持ちを立て直したアモナ姫がどうやら身振り手振りで、あれ、すぐバレる。すぐに戻せ! とサインを送っているように思える。
無論、僕も同じ気持ちなのだがテンパっているレヴィがこちらを全く見ていないのだ。野球でいえば9回の表に1点差リードしている場面、確実にスクイズで1点決めたいところなのに選手がこちらを見ていないのだ。お、お前、まさか打つ気か!?
「…………」
ダメだ。セリフが飛んでいるようだ。今すぐ代打を送りたい。タイムしたい。代打俺で行かせてほしい。
「どうしたのアグノラ? えっとどこまで話をしていたのだっけ、続きを進めるわよ」
「ちょ、ちょちょちょっと、よろしいでしょうか」
「どうしたの? あなたらしくないわね。やはり少し疲れているようね。今日は休みなさい」
その言葉を聞いた瞬間、僕とアモナ姫は心の中でガッツポーズを決めた。これはベンチの心配をよそにスクイズを警戒したピッチャーが三塁牽制球暴投。まさかの暴投といえる! 三塁コーチのアモナ姫が腕をぐるぐる回している。あとはホームベースに向かって走るだけでいいのだ。もはや追加点が決まったも同然。
予定では、疲れた振りをして貧血気味にフラッと倒れるアグノラ。心配するアンジェリカがアグノラをベッドに運ぶというプランを考えていたのだ。その後アンジェリカに入れ替わり、ベッドで寝ているアグノラを心配する体で「あなた倒れたのよ。私がここまで運んであげたんだから」といった感じでとても自然にスキャンしたことをうやむやにする作戦だったのだ。しかしながら、完全に予定とは違う展開ではあるが奇跡的にストーリーが繋がったのだ!
「あ、あれーっ! あたまがグルグルするーのです」
ここでまた予定外の動きが出てきた。なんと、レヴィが奇跡的にセリフを思い出してしまったのである。
アモナ姫再び茫然!! 信じられないものでも見ているかのように、目線がレヴィと僕を行ったり来たりしていて落ち着きがない。普段から優秀なレヴィだけに、このポンコツぶりはなかなかに興味深い。
「あなた本当にアグノラなのかしら? 少し熱っぽいわね、やっぱり普段と調子が違うようね。しょうがない、寝室まで運びましょう」
倒れそうになったレヴィの背中を抱えるようにしてアンジェリカが抱きあげた。
セーフ! セーフ!! 追加点が決まったぁぁぁ!! 向かい合ったアモナ姫と音がしないようにエアハイタッチを交わした。
危なかった……。テンパっているレヴィが微妙に熱っぽくなっていたのも結果的に助かった。あとは最終回にクローザーとして僕がマウンドに立てば、そつがなく何事も無かったかのように終えることが出来るだろう。ちなみに本物のアグノラさんは僕の闇の門の中でぐっすり眠っている。
「アグノラにもここ最近は無理をさせ過ぎてしまったようだな……。旅団を任されたばかりだったのもあって、自分の事もそうだがアグノラのことも見えていなかったようだな。やはり見えないところで疲れがたまっているのかもしれぬ。今日は少し早めに寝ておくか」
寝室に運ばれたアグノラに扮したレヴィをベッドに寝かせるとアンジェリカは再び会議室へと戻っていった。ここまではギリギリ何とか違和感を感じていないように思える。やはり普段とは違う戦時中という環境が奇跡を起こしてくれているのかもしれない。いろいろと危ない場面もあったが結果よければ全てよしなのだ。
「さて、本物のアグノラをベッドに寝かせるか……」
僕は闇の門の中で眠っているはずのアグノラを出そうとしたのだけど、アグノラは何故か普通に歩いて出てきたのだった。えっ? えーっ!!!!
「お、お前たちは、な、何者だ……フガムグッ」
な、何でもう起きてるの!? 慌てて口をふさぎながらベッドに押し倒すと横には同じ顔をしたアグノラ。もう意味が分かんないよねっ! 意味が分からなかったのはアグノラも同じようで、涙目をしながらも知らない男と自分と同じ顔をした人にベッドに押し倒されているという現実にパニックになっていた。
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