第18章 10話
朝食ミーティングを終えた3名が食堂を出ていったのを見送りながら、どうしたものかと考える。狙いを定めた副師団長がまさにキーパーソンだった。内戦の辛いところで敵とはいえこの人たちが悪とは思えない。たまたま仕えていた上司がどうしようもなかっただけで、この人たちはこの人たちで生きるため、王都を故郷を
守るために必死なのだろう。
近衛師団が前線に来るのは厄介だが、少し弱らせて立たせればいい。作戦を実行させてから抑え込んだ方が戦闘意欲も無くなるだろう。こちらは前線を固め守りに徹すればいい。攻撃するよりも守るだけの方が圧倒的に強い。そしてアンジェリカ副師団長の旅団を何かしらで動きを止めることができれば初戦で完全勝利することも可能だろう。後方のキュトラス方面に兵を配置するよう動いておけば完璧だ。その作戦でいく場合、キメラはそのまま泳がせておいた方がいいのか。国王には万全を期してキュトラスに逃げる方向で動いてもらいたい。
「お兄さま、アンジェリカとアグノラを追い掛けましょう」
「隙をついてアグノラから認識していきます」
「その前に、カイトさんと連絡をとって情報の共有をする。アンジェリカとアグノラはその後にしよう」
「では、私はこの状況をレイコさんに共有しておきますね」
カイトさん達は予想通り北側の研究施設を発見しており、フォーメンションAで無事施設内への侵入を果たしていた。研究施設というよりも半分以上は檻で囲われたエリアだったという。もちろんその檻の中には多くのキメラがいたという。
「事情は分かりました。その作戦が本当に実行されるかを見定める必要はあるかと思いますが、今のところその線は高そうに思えます。こちらはメルキオールの居場所を押さえたいのでもう少し探ってみます」
「了解しました。メルキオールは見つけ次第に始末してもよいでしょう。戦いが始まるまでアモナ姫の変化をメルキオールに使って、戦いが始まる頃にこちらでみつけた副師団長に変化させるという手もあります」
「えっと、メルキオールは死体でもスキャンできるんですか?」
「カイトさん、アモナです。死体でも問題ありませんので、その時は持ち帰ってください」
「かしこまりました。ではまた後ほど」
レヴィの方もレイコさんと話が終わっていたようだったのでこのままアンジェリカさん達がいるであろう彼女たち専用の会議室へと向かう。先程も彼女たちがいた場所だ。訓練内容が大幅に変更となったのだから少なくとも午前中は打ち合わせを行うことになるだろう。
「やはりここにいましたね。問題はアグノラが一人きりになるタイミングがいつ訪れるかですね」
アモナ姫が少し興奮気味にそう伝えてくるのだが、女子のトイレ休憩を待つほど悠長にしている場合でもないし、女子はトイレも一緒にいく可能性がある生き物だ。ここは少し時間を短縮するか。いや、それともトイレ中を狙うというトリッキーな作戦も無くはないのか。い、いや、流石にトリッキーすぎるか……。僕一人ならトイレのタイミングまで待つだろうが、今ここにはレヴィとアモナ姫もいるのだ。
「レヴィ、これ今なら会議室に二人しかいない訳じゃないか? 一気にやってしまおうかと思ってるんだけどどう思う?」
「えーっ!! だ、大丈夫なのですか?」
「そうですね、良いかと」
「い、いいのですか!?」
疾風!
僕は扉の隙間からお馴染みの麻酔のガスをイメージした風を部屋の中に送り込んだ。
「タカシ様、手慣れていらっしゃいますね」
「に、任務中だからねっ!」
しばらくすると、机の上に倒れ伏すようにしてアンジェリカとアグノラが寝入ったようだ。さて、換気をしっかりしようか。
疾風!
「アモナ姫、すぐに二人をスキャンしてもらえるかな」
「は、はい。かしこまりました」
「レヴィ、これから一芝居打とうと思う。お願いできるかな?」
「お任せ下さいませ、お兄さま」
「最初はアグノラと入れ替わってもらうね。で、次はアンジェリカに入れ替わって……」
自信満々に頷いてみせたレヴィであるが、この時、僕はうっかりしていた。割と何でも優秀にこなすレヴィであるが結構な大根役者であったことを忘れていたのだ。
そういえば、『千葉ダンジョン』に山ガールを誘き寄せた時も相当なシミュレーションを繰り返し行っていた気がする。結果としてティア先生からあまり言葉を喋らない方向に演技プランを修正されていたような気がするんだよね。
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お楽しみ頂けたら嬉しいです!
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