第18章 9話
朝食の支度はすでに整っている。師団長が来る前にテーブルに到着したことにホッと胸を撫でおろしながら立って待つアンジェリカとアグノラ。本日の朝食はチーズの入ったホットサンドとミネストローネにコーヒーだ。上官用のメニューとはいえ、かなり質素なものになってきているようだ。
「朝食はこれだけなのか。今朝は同じものを師団長もお食べになるのだぞ!」
「アグノラ様申し訳ございません。物資の入荷が遅れているようでして、これでも特別メニューなのでございます。本日に至っては一般兵は食パンと野菜スープのみとなっております。昨日チーズがかなりの数入荷したはずなのですが、倉庫のどこを探しても見当たらないのです……」
「倉庫の管理ぐらいしっかりやってくれ。理由は分かった、すまなかったな」
「いえ、少ない食材を工夫して提供できるように頑張ります」
そう言って厨房に戻っていくコックさんは先程アモナ姫がしっかりと認識済みである。それにしても侯爵様一家が大量にチーズを持ち帰った影響がこんなところで出ているようだ。残念でしたね。食糧もまだまだあるとはいえ、公爵派が周辺を囲い始めている影響もあって少しづつ厳しくなっているようだ。
「あまりいじめてやるなアグノラ。決戦が近づいてきているのだ。もうしばらくの辛抱であろう」
「エ、エルモア師団長、これは失礼いたしました」
40代前後と思われる厳つい男性がいつの間にか入室していた。合図を出すと厨房から人が出ていく。人払いが必要な話なのか。
「アンジェリカ、今朝は呼び出してしまって悪かったな。それにしてもなんだか、何人も人がいたような空気が残っているような……気のせいかな」
「く、空気でございますか?」
「あー、別に気にしないでいいよ。それでは朝食をいただこうか」
やはり指揮官クラスになってくると普段の動きからも隙が無いよね。あまり近くにいなくてよかったと思う。も、もう少し離れようかな……。レヴィとアモナ姫に指示をしながらゆっくりと厨房へと下がっていく。耳をすませばここからでも声は聞こえる。
「エルモア師団長、私が率いる旅団の練度が低くご迷惑をお掛けしております」
「いや、そんなことはないだろう。アンジェリカが旅団を率いてからまだ20日程度であったな。急な昇格であったにも拘らず頑張ってくれている。助かっているぞ」
「あ、ありがとうございます。しかしながら決戦は近いのでしょう。このままでは足を引っ張りかねません」
「まあ、もともと時間的に無理があったのだろう。それに、武に自信のある者、どちらかと言えば団体行動が苦手な者を集めてしまったからな……。それで相談したかったことはだな、お主の軍を遊軍として師団とは別の動きをしてもらおうと思っている」
「そ、それはどういうことでしょうか」
「昨日も会議で最終決戦の話し合いをしていたのだが、近衛師団の位置は中央後方となりそうなのだ」
「中央後方……。国王様を守れということですか」
「おそらくだが、王都は捨てるつもりなのだろう。後方のキュトラスへと向かうことを考えているようだ。しかも、あのキメラを王都に放し混乱させている間にだろう。もう民のことを考えておらんのかもしれん」
「そ、そんな! 王都を守らずに近衛師団を名乗れましょうか!?」
「国王様を守ることも近衛師団の役割だ……。しかしだな、ここで公爵軍の勢いを止められなければじり貧であろう。公爵軍の勢いを見て日和見をしている貴族も多いと聞く。一度流れが悪くなったら盛り返すことは難しくなるはずだ。……そこで、お主の軍には公爵様を一点突破で狙ってもらいたいのだ。向かい合って見なければ何とも言えんが、弱いところを見つけて道はこちらで切り開く」
「一点突破ですか……。道を切り開くと言っても中央後方からでは何も出来ないのでは」
「鎧を入れ替える。全てという訳にはいかぬが、ほとんどの兵を近衛師団で前方を揃える。公爵軍もまさか初戦から勝負を仕掛けて来るとは思うまい。この戦いは初戦が勝負となる! アンジェリカ、お主の旅団には一点突破に適した人材を多く配属している。このようなお願いをしなければならないことを許してほしいのだが、その頼めるか」
「勿論でございます。ここを抜けられたら次は私達の故郷です。全身全霊をもって公爵軍を討ち取りましょう」
「そういえば、アンジェリカもアグノラも出身はキュトラスであったな」
「はい」
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