第18章 3話
「こんな場所では何ですから地下にご案内しましょう」
そう言ってリビングにきた侯爵はソファーを背もたれ側から倒すと、何らかのギミックが発動したのだろう。カチカチと音が鳴り地下へと続く階段が現れた。しっかりついて行かないと侯爵家族を見失ってしまうので、恥ずかしながら服の裾を掴ませてもらった。何で服の裾を掴んでいるのかとか思いはじめたら危ないな。一方で存在が気薄な家族は久し振りの来客でテンションがやや高めなようだ。
「紅茶はどれにしましょうかしら、ゴールドチップの入った高級茶葉がまだ少し残っていたと思うのだけど」
「いや、タカシさんは珈琲の方がいいのではないかな。香りの強いトワジャワ産の豆を浅煎りに焙煎したものがあっただろう」
「いやいや、父上。こんな時こそワインじゃないのですか? 我が家は地下で最高の保存状態のワインを多く抱えているではないですか」
「それよ!」「それだ!」
どうやら、美味しいワインをいただけるらしい。そろそろみんなを紹介しないとならないね。
「手紙の内容からすると大規模な潜入作戦のようですが、お二人だけなのですか?」
「あー、いえ、メンバーをご紹介しますね」
僕は闇の門からみんなを出すと一人一人紹介していった。レヴィ、レイコさん、ヨルムンガンドちゃん、ウンディーネ、そして……アモナ姫。
「えっ? なんでアモナ姫来ちゃってるの!? 謹慎中だよ。魔王様に見つかったら怒られちゃうって!」
「私の特異魔法でジルが上手く演技をしてくれるはずですから、た、多分、大丈夫だと思いますわ。それに、タカシ様のお側が一番安全だと思いますもの」
「多分って……。あ、あれっ? 特異魔法って?」
「たいした魔法ではないのですが、ジルには私の魔法で私の姿に変化してもらっております。なので、すぐにバレることはないと思います」
「お兄さま、アモナさんをお連れしたのは私達がお願いしたからでもあるのです。お兄さまはアモナさんと婚約されているのですから、もう少しお互いのことを分かり合った方がいいと思うのです」
「そうですよ、タカシさん。ゆくゆくは一緒に暮らすことになるかもしれないのですから、私達もアモナさんのことを知る時間がもっとほしいです」
レヴィとレイコさんの言いたいことはわかるけど、何もそんな急がなくてもいいのに。
「潜入中、アモナなんちゃらは闇の門に入れておけば安心ですわ。夜ご飯でも作っておいてもらえば何の問題もないわ」
「そんな簡単に言うけど、内戦の真っただ中に連れてきちゃダメでしょ……といっても今さらだけどさ。連れてきてしまったものはしょうがないから、ティア先生の言うように任務中は闇の門に入っててもらうけどいいかな?」
「はい! ありがとうございます。闇の門の中で出来ることは何でもやりますのでおっしゃって下さいね」
「あらあら、若い方々が多いのですね。これならやはりお紅茶を淹れましょうね」
確かに僕以外は全員若すぎる集団だよね。そして全員酒癖も悪いし、ワインを止めておいた方がいいのは賛成だ。ヨルムンガンドちゃんに至ってはまだ5歳だしね。
「それで手紙には、私にもタカシさんの潜入を手伝うようにと書かれていたのですけども、どちらに潜入する予定なのですか?」
「僕たちの任務は近衛師団への潜入と師団をなるべく内戦に干渉させないように工作することだそうです」
「近衛師団での工作ですか。それはまた大変そうな任務を任されましたね。人数が多いので新入りの振りをすれば紛れ込むことは可能だと思いますが、この人数でいくのはさすがにどうかと思いますよ」
「そうですか、人数を絞らないとダメですね」
「あと、近衛師団には女性はほとんど在籍していなかったと思います。ですので、潜入したとしてもかなり目立ってしまいます」
「じゃあ、俺とマスターの二人で潜入決定だな!」
「勿論のこと、子供は師団にはいません」
「う、うそだろ!?」
そりゃそうだろう。それにしても、僕一人での潜入になるということかな。それならそれで別に構わないんだけど……あれっ、特異魔法か。
「アモナ姫のさっき話していた特異魔法なんだけど、ちょっと詳しく教えてもらってもいいかな?」
「あっ、はい」
どうやらこの特異魔法、知っている人、見たことのある人に外見のみを変身させることが出来る魔法らしい。つまり、ティア先生に魔法をかけてレイコさんに変化させることが出来る。しかも魔法を解除しない限り数日は変化させたままでいられるそうだ。この魔法を使えば全員で潜入が出来そう。
「それなら実際の師団の人を拉致して、僕たち全員にその魔法をかけてもらおうか」
「タカシ様、それが、その、この特異魔法は同時に2名までしか使用できません。つまり、残り1名なのです」
ジルさんに既に魔法を使用しているから残り1名ということか。誰がいいかな。潜入に向いていそうなのはティア先生ではないよね。ヨルムンガンドちゃんも違う気がする。ウンディーネも微妙だし、やはり、レヴィかレイコさんが無難なところかな。
「お兄さま、ここは私が」
「レヴィ、わかってるの? 潜入はとても難しい任務よ。ここは経験豊富な……」
「うん、じゃあレヴィで」
ティア先生がわかりやすく絶句しているが、これが最善だろう。さて、侯爵様と話を進めようかな。
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