閑話 17
謁見の間ではベルサリオ公爵に呼び出された聖女様、そしてリズがいた。
「タカシ殿は体調が優れないとか。ソフィアよ、みなが騒いでおるようだが救護所で一体何が起こったというのだ」
「は、はい。ベルサリオ様、水神様の奇跡が起きたのでございます! 朝のお祈りをしていたところ水神様からご神託がありまして……」
「な、なんと! ご神託が! して、その内容とは?」
「そ、それが、よくわからないのですが、『暫くの間、貴女を依り代として使わせて頂きます。そして、これは貴女自身にとっても格の上がることとなるでしょう』という言葉のあとに私は気を失いました。その後のことはリズの方が詳しいのですが……」
「リズ、お主が見たことを申してみよ」
「……は、はい。私が見たのは変態……い、いえ、タカシ殿と聖女様がディープなキスをしている場面でした。聖女様はまるで水神様に操られているかのように激しく貪るようなキスをされていたのです」
「ディープキスを……。ソフィアとタカシ殿がか? キスとご神託に何か関係はあるのかリズよ」
「よくわかりません。ただ……」
「なんだ、申してみよ」
「聖女様がキスをしたことで、水神様のとてつもない魔力が一時的にですがタカシ殿に注入されたようなのです」
「つ、つまり、その魔力が奇跡を起こしたというのだな。ソフィアよ、その後、水神様からのご神託はないのか? 数千人を完治させるほどの魔力があれば此度の内戦も早期終結できるかもしれぬ」
「タカシ様のご様子を窺う限り魔力注入されてから、そう長く保てずに放出されたように感じました。強烈な魔力の塊です。体が持たないのでしょう」
「そ、そうか。そうなると軍事利用は難しいか……」
「それでも今後のために、いろいろ試してみた方が良いでしょう。私はしばらく神殿に籠ってお祈りをするべきでしょうか」
「しかし、聖女様。ご神託を受けたらどなたかにディープなキスをしなければならないのですよ」
「くはっ! ディープキス!?」
「ふむ、聖女がディープキスをしまくるというのは流石にイメージがよくないのう」
「し、しまくってませんっ!」
「その場にリズ、お主しかいなければソフィアはリズにディープキスをするのだろうか?」
「そ、そ、そんなことわかりません!」
「水神様は筋骨隆々の男の中の男、ポセイドン様であろう。やはり男同士でキスするよりも女の子とキスをしたいのではないかの?」
「せ、聖女様とキス……」
顔を仄かに染めて恥ずかしそうに言葉を噛みしめては聖女様をチラ見している。どうやら満更でもなさそうだ。
「リ、リズ!?」
「聖女様がお嫌でなければ……」
どうやらリズ改めレズ……いやユリズに改名が必要になってきた模様である。
「た、確かに、殿方とキスをするよりはリズとキスをした方がよいのでしょうけど、ディープなのはちょっと……」
しかし、そこは逃がさないように強引に話を繋げていく。迷わせる前に決める。決めきってみせるという強い意志がユリズから感じられた。
「それでは、しばらくは情報を集めるのに重点を置くため、神殿内の男性立ち入りを一切禁止と致しましょう! 神殿内で聖女様のお世話をする者は全て私が選抜させていただきます」
「おお、いつになくやる気であるな、リズよ」
「キスのお役目に関しましてもいろいろと試した方がよいでしょう。水神様のタイプを調べるためにも、私がお試し……いえ、厳選して様々なタイプをご用意することにいたしましょう」
水神様の神殿がこの時期よりしばらく男子禁制となる。ベルサリオにおいてもかなり有名な歴史的瞬間の幕開けであった。ユリズによって厳選された女性のみが神殿内の立ち入りを許され、聖女様を頂点とした圧倒的女性社会が作られていったという。
しかしながら、この男子禁制策が裏目に出てポセイドンの不興を買うことになるとは、この時は誰も想像出来なかった。
だって、ポセイドンが好きなのは質の高い魔力を豊富に持つ水属性を得意とする素敵なメンズなのだから。それはもう激おこであった。
おかげさまで、『ダンジョンの管理人はじめました。』の発売が決まりました。
集英社ダッシュエックス文庫より5月24日発売となります。
活動報告でもご紹介させて頂きましたが、イラストレーター様は風花風花さんです。
とても可愛らしくティア先生、レヴィを描いて頂いております。情報解禁になり次第またお伝えさせて頂きます。




