第17章 15話
「あ、あの、お待ちください!」
お会計を終えた衛兵さん達が、話があるようで呼び止められてしまった。そろそろちゃんと話を聞いてあげようと思う。
「何かご用ですか?」
「はい、明日の朝一番に公爵様からお話があるとのことでございます」
「潜入するスケジュールが決まったのかな?」
「内容は伺っておりませんが、おそらくは」
「了解しました。準備を整えておきます。それじゃあティア、レヴィ戻ろうか」
「はい、タカシ様」
「はい、お兄さま」
後でティア先生に衛兵さん達と何か勝負をしていたのか聞いてみたけど、どうやら何も賭けていなかったらしい。
「そうですわね、強いて言うならばプライドかしら。プロが一般人に勝ったところで誰も驚きはしませんもの。食の探求者とはそういうものなのですわ」
なんか格好よく言ってるけど、食の探求者って一体何なのよ? よくはわからないけど、一応褒めておいた。
「へぇ、すごいんだね。えらいえらい」
◇◇◇◆◆
翌朝、謁見の間に通された僕たちはベルサリオ公爵から潜入に向けての話を伺っている。どうやら、僕たちの役割としては国王軍最大の戦力を誇る近衛師団の足止めと可能な限りの攻略とのことらしい。
「近衛師団って人数はどのくらいなのですか?」
「およそ2万の精鋭だ。タカシ殿には最終決戦までの間に近衛師団がなるべく前線に出てこられないように最大限の工作活動を行ってもらいたいのだ」
「かしこまりました。最終決戦の日程はどのくらいを予定しているのでしょうか?」
「一番遠方から来る辺境伯軍が王都に進軍するのに2週間といったところであろう。それまでの間を頼めるであろうか」
「えぇ、了解致しました」
兵の数では互角の戦いになりそうとのことだったが、聖女様の奇跡が噂で拡がっているらしく、日和見をしている貴族も出てきているとのこと。公爵派としてはその隙に水神様パワーで調略を仕掛けていくらしい。
公爵様も2週間後には6:4ぐらいまでにして最終決戦に臨みたいと言っている。近衛師団を上手く抑えられれば7:3ぐらいまで一気に持っていけるのではないだろうか。
「王都に入ったらナイトレイ侯爵家を訪ねてほしい。潜入中はタカシ殿の力になってくれるはずだ」
「ナイトレイ様ですね。かしこまりました。では、行って参ります!」
「うむ、よろしく頼むぞ」
「タカシ様、ご武運を」
「さっさと片付けて魔族領に戻るがいい」
出発のタイミングで、ソフィアさんとゴリズも来てくれたようだ。時間があればあと2~3回は聖女様の伝説を作りたかった。
さて、またドラゴン空の旅が始まるのだね。ティア先生が我慢しきれないようで、もう水竜の姿になってしまった。準備は万端のようだ。
「タカシさん、私たちはまた闇の門に入りますので早く魔法を」
「やっぱり誰も付き合ってくれないんだね」
知っているけどさ。
「無理ですよ。唯一可能性があるとしたらウンディーネぐらいでしょうね」
ウンディーネはチラッとこちらを見るも、みんなと一緒にさっさと闇の門へと入っていってしまった。さ、寂しくなんかないんだからね!
「じゃあティア行こうか……」
尻尾をブンブンに振っている水竜。散歩を我慢出来ないワンコのようにわかりやすい。僕を乗せて飛びたくて堪らないのが一目でわかる。
僕がスキルエレメントで姿を変えながら水竜に張り付く姿を「マジかよっ!」といった表情で見送ることになった公爵様と聖女様にゴリズ。まさか、ドラゴンに乗るのではなく張り付いていくとは思わなかっただろう。あんまり見られるのも恥ずかしいから早く行こう。
凄まじい暴風で聖女様のスカートが捲れ上がりパンモロしているのを眺めながら、ちゃんと目標の方角とは逆に飛んでいくティア先生。
最近になって何となく気づいたのだが、ハイテンションな振りをしてわざと逆に飛んで飛行距離を稼いでいるように感じられないこともない。というか、かなりあやしいと思い始めている。いや、テンションが高いのは間違いないね。まぁ、そんなところも可愛いから僕も知らない振りをするんだけどね。
遠回りをしながら水竜は王都の近くまで到着した。王都を囲うようにして多くの兵士がおり、テントを張っている。所々で煙が立ち上っており、食事の準備をしているようだ。
僕たちの姿はもちろん透明化により見えることはない。ここからは歩いて行こう。
「ティア、そろそろ降りるよ! 街へ入る門は透明になったまま歩いて通り抜けよう」
「も、もう終わりですのね」
さすがに内戦中ということもあって、入口周辺はかなり念入りに人数をかけて警備されている。また、物資を運び入れる荷馬車が長い列を作っていて動く気配もない。ベルサリオとはかなり雰囲気が違うようだ。街の様子が気になるね。
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