第17章 14話
ベルサリオでは聖女様の奇跡の話題で持ちきりだった。聖女様がぶわーっと魔力を放出して、その場にいた怪我人3000名を全員完治させたといった話があちらこちらで話されている。噂話とは尾ひれがついていくものだ。これだけ盛大にPRされれば国王派の耳にも届くことだろう。
「僕が治癒した数が3倍に増えているよ。まぁ、その方がインパクトがあっていいんだけどさ」
「お兄さまは公爵様の所へ赴かなくてよかったのですか?」
噂がベルサリオの街中に広まったことで、事情を確認するため公爵様から呼び出しをくらったのだった。
「下手に突っ込まれても困るし、水神様のせいにしておけばいいんだよ。ここは聖女様とゴリズに任せようと思うんだ」
僕は魔力が無くなりフラフラな状態の為、しばらく休ませてもらいたいと丁重にお断りさせていただいたのだった。
「でも街を観光しているのを見られたら怒られませんか?」
「そこはまぁ、魔力が回復したとか少し気分が良くなったので外の空気を吸おうと思ってーな感じで言い訳を伝えればきっと大丈夫なはず!」
「そうよ、レヴィ。衛兵さんなら、ちゃんと撒いたし問題ないわ。せっかくの食べ歩き観光なのだから、……そうね、次はあの焼き串盛りを頂きましょう」
「あの衛兵さん怒られないといいのですけど……」
レイコさん達にお留守番を頼んで、僕とティア先生とレヴィの3人で食べ歩きをしながらベルサリオの街を観光している。ご飯も公爵様の方で全て用意してくれるのだけど、街の様子とか気になるしね。外出をしたところでいかにもな衛兵さん達が僕たちの後を追い掛けてきたので、角を曲がったところで透明化したのだった。
「僕たちを見失って相当焦った表情をしていたもんね。彼の役目が僕たちのボディーガードとかだったら申し訳ないかなとは思うけど、それならそうと教えてくれるはずだもんね」
「私たちを見失ったのですから、今頃応援を呼んで探し回っているかもしれませんよ」
「まぁ、そろそろ見つかってもいいかな。レイコさんやヨルムンガンドちゃんのお土産も買えたしね」
「そうですね、ウンディーネが好きそうな入浴剤も何種類か購入できました」
ベルサリオの街は、内戦の影響で一部の商品が品薄になってはいるものの、大きな影響は出ていないようで市場も屋台も活気がある。
「やはり日持ちのする食料や回復系のアイテムが全然無かったですね」
「あれっ? ティアはどこに行ったのかな?」
「えーっと、お姉さまは……。あっ、あそこのお店でチャレンジメニューを食べていますね。あ、あと、両隣に!?」
串盛り5キロ時間以内に食べきれたら無料! とデカデカと掲げられた看板の前で既にティア先生はチャレンジ中だった。そして、両隣にはなんと僕たちを見失って慌てていた衛兵さんが座っている。衛兵さんは、僕とレヴィの顔を見ると負けませんよとでもいいたそうな余裕の表情で串盛りを食べ進めている。何故に僕たちを探していたはずの衛兵さん達がティア先生とフードファイトを始めているのかはよくわからないが、無謀にも程がある。
「私に勝ったらあなた達の迷惑にならないように、この街に滞在中は大人しくしているわ。でも間違って私が勝つようなことがあったら、その時は私の言うことを聞いてくださるかしら。的な会話があってフードファイトが始まったんじゃないかな」
「今のはお姉さまの真似ですか? ポイントを掴んでらっしゃいますね。でも、あながち間違いでもなさそうですよね。衛兵さん達が少しずつ焦り始めていますから。それにしてもお姉さまにフードファイトで対戦しようなんて無謀ですね」
レヴィも同意見のようだ。見かけに騙されてはならないといういい例だな。ティア先生の胃袋に不可能はないのだ。
「しかもあれ、顎に治癒を使っているよね」
「えぇ、万全を期してますね。そんなことしなくても余裕がありそうなのですけど」
ラストスパートに入ったティア先生は衛兵さん達がまだ半分残っている状態にも関わらず、圧倒的勝利の雄叫びを上げていた。唖然とした表情の衛兵さん達を横目に、狼狽する串盛り屋の店主のもとへ嬉々として近寄っていく。
「お会計? じゃないよね」
「お、お兄さま、看板を見てください」
「なになに? 女性15分以内で完食の場合は、1年間無料!!!」
「あぁ、あのお店は残念ながら……」
「倒産待ったなしだね。なるべく早くベルサリオを離れてあげないとね……」
「あっ、衛兵さん達がギブアップしましたね」
僕たちの方へ楽しそうに、スキップしながら無料パスポートを掲げているティア先生がやってきた。何かをやり遂げた満面の笑みを浮かべている。そこに5キロの串盛りが吸い込まれたとは思えないぺったんこなお腹。まぁ、可愛いからいいか。
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