第17章 13話
救護所は朝から、うめき声が聞こえ、血や汗のにおいも充満しており爽やかな朝とはとても言い難い。聖女様が来たというのに気付いている人は数名ばかり。これではインパクトに欠ける。欠けてしまう。それは勿体ない。もっと凄い聖女様爆誕の瞬間を目に焼き付けたい。
疾風×30
無数の風が巻き起こり、部屋の空気を全て入れ替えていく。風は聖女様を中心に巻き起こり、スカートが少しだけ捲り上がる。疾風で朝の澄んだきれいな空気と入れ替わっていく。今までのどんよりとした空気とは違う綺麗な空気。これだけで何か聖なるものが登場した感が出るというものだ。
「せ、聖女様だ……。聖女様が来てくださった!!」
「あぁ、こんな私のところへ来てくださるなんて……」
「ありがたや、ありがたや」
「う、美しい! そ、そしてなんて神々しいお姿なのでしょう」
光属性の魔法を使って天井からライトアップして聖女様を照らす演出をしてみせた。完璧だ。ちょっとやりすぎてしまったぐらい目立ってしまっている。ゴリズのこちらを見る目が険しい。
「みなさま、おはようございます。ソフィアは昨日ベルサリオに戻ってまいりました。今朝は少しでもみなさんの傷を癒せることが出来ればという気持ちから救護所へと参りました。みなさまの怪我がいち早く治りますことを心からお祈り申し上げます」
もちろんこの聖女様の声は風魔法の疾風を使って遠くにいる患者さんの耳元まで丁寧にお届けしている。まるで、自分に話し掛けているかのように聞こえていることだろう。見ればあちこちで顔がポーっとしている人がちらほらと見受けられる。怪我している時に耳元で聖女様にお祈り申し上げられたら、それだけで惚れてしまうこと間違いない。いい感じにこの場の空気に流され始めている。悪くない流れだ、そろそろいいだろう。
治癒×1000
聖女様を中心に魔力の渦が巻き起こる。スカートはビラビラと捲り上がり、聖女様の頭上に集まった禍々しいほどの魔力の塊、畏れの混じった魔力にその場の全員が驚愕の目を向けている。その塊が徐々に四方八方へと飛び散り始めると救護所の中を所狭しとまるで生きているかのように飛び回っていく。そしてその魔力は、いつしか患者さんの胸へと飛び込んでいくと一瞬にしてその者の怪我を治癒していく。腕を失っていた者からは新しい腕が生れる。目を負傷し視力を奪われていた者は目が開くとその目から涙がこぼれ落ちる。歩くことを諦めていた者が立ち上がり涙を流している。ただ死を待っていた者が一転して生への道が開かれる。まさに常軌を逸した奇跡が目の前で起こっていた。所々で起きる歓声と喜びの声にあふれていた。
賢者の杖があるとはいえ、ゴッソリ魔力を持っていかれた。さすがに治癒もこれだけの数を撃ったら足にくるな。思わず膝をついて跪くようにみえたかもしれない。傍から見れば騎士が聖女様に忠義を尽くしているように見えなくもない。騎士ではなく魔法使いよりだけども。それを見た全ての人が同じように跪く。シーンとした静寂の中、聖女様も茫然としている。その全ての目が自分に向けられていることに気づき慌てて手を振りながらニコニコ笑顔を継続していたが、僕の目の前にある聖女様の足はガクガクに震えていた。
「タ、タカシ様、こ、これはやり過ぎではないのでしょうか。ひょっとしなくてもこれ全員完治してますよね!」
「1000人ぐらい可能だと言ったはずですが」
「そんなこと本気に受け取る人はいませんっ! 半分でも奇跡だと思ってましたよっ!」
むぅ。お気に召さなかったのだろうか。とはいえ、やってしまったことを無かったことにする訳にもいかないのだ。最後までしっかりと聖女様してもらおう。
「この力は水神様、ポセイドン様のお力であり、その力を私に与えたのはソフィアさんなのです。つまり、聖女様の奇跡といって間違いございません。この魔法放出で私に与えられた力は全て無くなりましたが、聖女様がその気になればまた同じような奇跡が起こせるのです! もう少し自信を持ってください」
「そ、そうなのでしょうか……。そうですね。何より怪我をされた方が完治されたというのは喜ばしいことですものね」
「そうです。ソフィアさん、みなさんが聖女様の声をお待ちしております」
跪きながら聖女様を見上げ、次ぎに発せられる声を待っているかのように静かな時間が流れている。怪我が治り騒いでいた者も、救護所全員が完治しているという奇跡を目の当たりにし、この光景に言葉を亡くしていた。
「今、ここに奇跡が起きました。しかしながら、これは決して私一人だけの力ではございません。水神様の思し召しであると同時に、この不毛な内戦を早く終結させなさいという啓示なのではないでしょうか。私達には水神様がついております。ベルサリオに大いなる祝福を!」
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