第17章 12話
その後なんとか気持ちを立て直した僕は、怪我をして神殿の救護所で治療を受けている方を治癒をするために、聖女様とゴリズとともに向かって歩いている。
「ソフィアさん、怪我を治療中の方はどのくらいいるのですか?」
「この街にいるのは千名弱ぐらいと聞いております」
話を聞くと、治癒を行う神官の数が足りていないようで、患者の人数がどんどん増えてしまってるらしい。重い怪我の場合は何度も治癒魔法を重ね掛けしていかなければならないようで、数日から1週間程度の時間を要するようで。つまり、ベッドの数が足りていないとのことだった。
「それでは、すぐに全員治してしまいましょう」
「ぜ、全員ですか!? 流石にこの人数を診るのは私と手分けをしても厳しいのでは。魔力回復薬などはほとんど前線に運ばれてしまっているのです」
ひょっとして、全員を一気に治したらもの凄く目立ってしまうのだろうか。変に目立つのも面倒だし、適当に聖女様を持ち上げておけばいいかな。
「実はソフィア様にお話していないことがあるのですが、先程の熱いキスを頂いたことで私の魔力がかなり膨大に溢れております」
「ふ、ふぁ、あ、熱いキスでしゅか!?」
「おそらくですが、水神様のお力が私の体の中に口移しで入ってきているようなのです」
「そ、そうだったのですね」
「ですので、今の私ならば水神様のお力により千名程度なら一発で完治させてしまう可能性がかなりの高確率でありえそうなのです。というか、これを放出しないことには私の体が大変なことになりそうです」
「そ、それは素晴らしい! 水神様の思し召しですね」
「はい。しかしながら、この力を多くの方に見せる訳には参りません。しかも魔族側の者である私がやったなどと思われる訳には絶対にあってはならないことでしょう。今後の友好ムードが一転、下手な軋轢を生む可能性すらございます」
「そ、それは大変ですね」
「そこでです! 元々、水神様のお力はソフィアさんから頂いたものです。おそらく今日限り、つまり限定された奇跡です。であるならば、魔法はソフィアさんが使ったように見せましょう。聖女様の奇跡を国王派に見せつけるまたとない機会にもなるでしょう」
「ふ、ふぇ、わ、私がですか!? そ、それはいくら何でも無理があります!」
「大丈夫です。水神様も、きっとこの為に降臨されたのでしょう。内戦が無意味なことだと訴えるのです! 聖女様の奇跡で争いを収めましょう」
「おい、変態。もしもその奇跡とやらが起きなかったらどう責任をとるつもりだ。聖女様に恥ずかしい思いをさせるようなことは許されんぞ」
「ゴリズ、少しは頭を使え。何も聖女様が今から大魔法を使いますとか宣言する必要はないんだよ。聖女様が慰問に訪れている時にいきなり全員が完治する。この状況が全てを物語ってくれる。聖女様は優しく微笑んで手を振ってみせるだけでいいんだ。そして考えるまでもないことだが、失敗した時は只の慰問ということにすればいいだけだろう。数名を治癒して次の予定があるとか言って立ち去ればいい」
「ふん、お前には正々堂々という言葉はなかったようだな」
「正々堂々とやって何かしら特典や利益があるのならチャレンジはするかもしれないけど、今回のケースはリスクを負う必要性が感じられないからね。そもそも、責任うんぬんいったのはゴリズだろう」
「うぐっ」
「リズ、何度も言わせないで」
「も、申し訳ございません」
「タカシ様、私の手柄のように見えてしまうのは釈然としないところがありますが、今回は水神様のお考えもありそうなので受け入れたいと思います」
「ありがとうございます。きっと水神様も怪我をされた方を放って置けなかったのでしょう」
「はい、そうですね」
あの水神様にそんな気持ちは一切無いだろうが、ここはせいぜい利用させてもらおう。今後何かしら困ったことがあったら全部奴のせいにすればいい。聖女様も水神様とそこまでコンタクトをとれてる感じでもなかったし大丈夫なはず。
「では、救護所へ向かいましょう。新たな伝説の始まりです」
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