第17章 9話
いきなり開始された武闘会にも関わらず周りの人達は慣れているようで、外側に捌けていったり、ご丁寧に椅子などの障害になりそうな物を片付けたりしている。
「ソフィアさん、こういうのってよくやってるの?」
「そ、そうですね。見ての通りベルサリオ様は戦うのが三度の飯より大好きな方でございまして」
「やっぱりそうだよね」
あっという間に準備が整って中央では既に公爵様とヨルムンガンドちゃんが向かい合っていた。
「準備はよいか?」
「おぅ、いつでもいいぞ!」
「では、タカシ殿に審判を頼もうか。よろしいかな?」
「勿論です。どちらかが危険な場合など、すぐに魔法を使って止めさせていただきますね」
「うむ」
どちらも準備は大丈夫そうだ。
「では、始め!」
「先制のキーック!!!」
「ぬぅおー!!」
流石ヨルムンガンドちゃん。拳で語る的なことを言っておきながらの先制攻撃を蹴りから始めるあたり、本当に何も考えていないのだろう。
しかしながら、ヨルムンガンドちゃんのスピードに戸惑うことなく、しっかり腕をクロスさせ防御してみせた公爵様もなかなかである。普通の一般人がヨルムンガンドちゃんキックを受けた場合、間違いなく体は2つに別れて血がブシャーってなるはずたからね。
「ソフィアさん、公爵様ってレベルいくつぐらいなのかわかりますか?」
「そうですね。確か50前後だったかと思います」
「なるほど。さすが言うだけはあるんだね。確かヨルムンガンドちゃんが35とかだったからちょっと厳しいかな」
「レベル差が大きいですね。あの子、大丈夫なのでしょうか?」
「いや、厳しいのは公爵様の方だよ。あー見えてヨルムンガンドちゃんの種族は大海蛇。初期ステータスからして数値が違いすぎるんだ」
「えっ? ということは、公爵様があの小さい子に負けてしまうというのですか?」
「うん、ヨルムンガンドちゃんが圧勝すると思うよ」
初回のキックを左腕で守ってみせたようだが、おそらくあの左腕は折れている。公爵様の攻撃は右腕一本となり単調になっているし、こうなるとヨルムンガンドちゃんの勝ちは揺るぎない。
「じいちゃん、きつそうだな。そろそろギブアップか?」
「ぬかせっ! 儂はまだ本気を出していない」
「そ、そうなのか!? どうりで、あまりにも手応えが無さすぎると思ってたぜ」
公爵様は痛みを堪えるように額の脂汗を拭っている。90%強がりだろう。
「ちっ、今度はこちらから行くぞ!」
最後の力を振り絞るようにして、ヨルムンガンドちゃんにタックルを仕掛ける。スピードもパワーも相手の方が上。あとは体格差を生かしてマウントをとりたいところなのだろう。
「公爵様に勝ち目はありそうですか?」
「一つ可能性があるとしたら、頭脳戦を仕掛けることかな」
「頭脳戦ですか……」
「見てわかるように、ヨルムンガンドちゃんの弱点を敢えて言うならば、5歳児ならではのオツムの弱さなんだ」
「それはまた何といいますか、はっきり言いましたね。例えばどのような作戦なのですか?」
「何でもいいのです。ゲームをして勝った方に攻撃する権利があるとか設定を変えればいい。もちろん、5歳児にバレないようにイカサマをする訳ですけどね」
「5歳児に容赦ないのですね」
「5歳児っていってもステータスはえげつないですからね」
「間違ってゲームに負けてしまった場合はどうするのですか?」
「その場合も、全力で誤魔化せば大丈夫です。今のは無し! ちょっと待った! 目にゴミが入ったからやり直し! とかね」
「タカシ様も、かなり考えが子供ですよ」
「普段から5歳児と接しているからこそです。大人の理不尽さを感じながらも、絵本を読んであげたり、お土産をもらったり、一緒にゲームをすれば全部忘れてくれます。この上書き作業を行えば全てオーケー」
「世の母親勢にがっつり怒られそうな発言ですね」
「ブフォ! ま、ま、参った」
ソフィアさんとヨルムンガンドちゃん攻略を話し合っていたら既に勝負がついていた。
タックルをかわしたヨルムンガンドちゃんが後ろに回り込み脇腹にめり込むように蹴りが決まっていたのだった。
ちょ、拳使ってないよね? ヨルムンガンドちゃん。とりあえずきれいに回復魔法で骨折も治してあげよう。
治癒
「お、おいっ!」
ゴリズが慌てているが、公爵様にそんな魔法使う訳ないだろうが。僕は空気が読めるダンジョンマスターなんだよ。
「タ、タカシ殿。い、今の魔法は!?」
「ち、治癒魔法でございますが……何か問題がございましたか?」
「い、いや、骨がくっついているのは勿論のこと、持病の関節の痛みや、目がかすんで靄がかかっていたのがクリアになっているのだ……」
持病でリウマチとか白内障があったのだろうか……。そんなのまで治るとか知らないわ。
続きが気になった方は、ブクマやポイント評価を頂けると作者のモチベーションアップに繋がります。




