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第17章 7話

 公爵領に到着したのは、さらに半日を馬車に揺られて進んだ頃だった。街を前にして馬車は屋根のないお披露目用の物へと乗り換えており、隣では立ち上がってみんなに笑顔且つ優雅に手を振る聖女様がいる。つい先程までの足をプルプルさせていた姿ではない、なんとも神々しいお姿をされている。


「まぁ、あれはあれで神々しいのかもしれないけどね」


「どうかされたのですか?」


「い、いや、何でもないよ。それにしてもソフィアさんの人気はすごいね。街にいる殆どの人がお出迎えしてくれてるんじゃないかな?」


「当たり前だ。聖女様はお前と違って民衆からの人望が厚い。魔族に捕らえられていた聖女様をずっと心配していたのだ。しかも此度の急に勃発した内戦で戸惑っている者も多い。聖女様が味方でいてくれることがこの街の誇りなのだ」


 ゴリズの癖に随分と熱弁を振るっている。聖女様というだけあって有名人なのは間違いない。今は国王派と公爵派に分かれているのだからこういうパフォーマンスは有効なのだろう。それにしても、隣のあいつは誰だ? 的な視線も少なくない。目立たないように深く腰掛けているのたけど聖女様の横はどうしても目立ってしまう。こんなことなら、今更ながら透明になっておけばよかったな。


「私は小さな頃から、この街でみなさんの怪我や病気の治療をして参りました。きっと街のみなさんにとっても、自分の子供のような馴染みがあるのでしょう」


「ソフィアさんの人柄だね。ゴリズも側にいるんだから、もっと影響を受けてもいいはずなんだけどね。あっ! 影響を受けて今の状態なんだね。あぁ、ソフィアさんの苦労が伺えます」


「お前に突っ込むのは疲れたから無視する!」


「落ち着いたら僕も聖女様と共に怪我や病気の治療をお手伝いをしましょうか?」


「お、お前は1番治療しちゃいけない奴だろうが!」


 やはり突っ込まずにはいられない性分なのだろう。ゴリズらしいといえばゴリズらしい。


「リズ、せっかくのタカシ様のご厚意に対して失礼ですよ」


「し、しかしですね……」


「そもそもタカシ様は子爵位でいらっしゃるのです。もっと礼節をわきまえて接しなさい」


「す、すみません」



「ソフィアさん、この街の名前は何というのですか?」


「この街の名はベルサリオ。公爵様の家名からとっている名称なのですよ」


 これから会う方はベルサリオ公爵というのか。一応味方になる人らしいけど、どんな方なのだろうか。気難しいタイプの人でなければいいのだけど。


「ベルサリオ公爵はどのような方なのですか?」


「前国王様の妹姫様とご結婚されたのがベルサリオ様です。つまり、現国王からみたら叔父にあたりますね。元々、武に優れた名家の出身でしたが、ご結婚後は前国王様から絶大な信頼を得て公爵家となりました。私にとっては只のお優しいおじ様なんですけどね」


「なるほどね。現国王からしたら、目の上のたんこぶだったのかな。自分の時代は自分で切り開く的な考えってありがちだよね」


「そうなのかもしれませんね。実は即位にあたってはベルサリオ様を推す声も少なくなかったと聞きます。しかしながらベルサリオ様は、前国王様よりルーサー様を頼まれており、後ろ楯として支えることを選んだのですが……」


「力を持つが故に冷遇されたのかな。ルーサーというのが今の国王なんだね」


「はい。ルーサー・ティンバーレイン。王国の第38代国王です。ルーサー様についてはベルサリオ様からお聞きするのがいいでしょう」


「うん、ありがとう。とても勉強になったよ」


「まったく、そんなことも知らずにここまで来るとは、本当にこの変態で大丈夫なのでしょうか?」


「リ、リズ!」


「間もなく城門です。馬車を降りる準備をお願いします。すぐに公爵様との謁見となりますので、そこの子爵様も失礼のないようにお願いします」


 お前の態度の方が失礼だけどな。しかしながら、ゴリズに丁寧な対応をされる方が逆に気持ち悪いのでこのままでいいと思っている。


 さて、内戦の状況はどんな感じなのか。公爵派の状況を詳しく聞かせてもらおうか。圧勝ムード漂っているといいんだけどな。


 大きな扉が開かれると、奥にはベルサリオ公爵と思われる白髪ながら筋骨隆々の大柄で厳ついおじ様が座していた。座ってるけど絶対2メートル以上あるよね? 


 えーっと優しい、おじ様? なの?

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