第17章 6話
目の前では聖女様が内股気味の足を小鹿のようにプルプルと震わせて、既に限界が近いご様子。畳み掛けるならば今を置いてないだろう。
「ソフィアさん、私とゴリズは後ろを向いて見えないように姿も消しておきましょう。他に選択肢はございませんし、そろそろ馬車を止めましょう。この揺れも既にきついでしょう」
実際にはスキルエレメントで風人になっておけば僕がどこを見ているかなどゴリズもわからないし、至近距離からの社会科見学も無論だ。無論である。
「し、しかし、目の前でするなど……」
「私としては、別にこのままソフィア様が馬車の中でされるのでも構わないのですが、さすがにそういう訳にもいかないでしょう。私の世界のことわざで『やるのは一時の恥、やらぬのは一生の恥』という言葉があります。その時は恥ずかしいと思っても、やらずに大惨事を引き起こしてしまうことのほうがもっと恥ずかしい。 一時の恥を惜しんで恥ずかしがったりせずに、素直にやってしまおうという教えでございます」
「そ、そんな教えがあるのですね。か、かしこまりました。リズ、申し訳ございませんが馬車を止めてください」
「聖女様、よ、よろしいのですか? その男に音まで聞かれてしまうのですよ」
「で、でも、他に選択肢がないのです。リズにも恥ずかしい思いをさせてしまい申し訳ないのですが……一時の恥です!」
「私は問題ございません。聖女様のご覚悟承りました。その男が変な動きをするようならその場で斬り伏せましょう」
「タカシ様のことは信用しておりますので変な心配はしておりません。ただ、私が恥ずかしいだけですから、そ、その、音ぐらいなら我慢しようと思います」
「かしこまりました。では馬車を止めます」
ゴリズが並走する御者に対して何やら合図を送っている。これだけ大きな隊列で進んでいると、馬車もすぐには止まることが出来ないようだ。聖女様のプルプルがとどまるところを知らない。ハンカチで冷や汗を拭いながらも気丈に振る舞っているいる姿はとても絵になる。
カシャカシャカシャ、カシャカシャカシャ
「タ、タカシ様、そ、その機械はいったい何をされているですか?」
「これは、スマホのカメラ機能……い、いえ、旅の思い出を記録する日記のようなものですからソフィアさんは気になさらないでください」
「は、はぁ……」
「聖女様、休憩の伝達が完了致しました。間もなく馬車が止まりますのでご安心ください」
「あ、ありがとう、リズ。あ、あの、出来るだけ早く、そしてゆっくり止めてくださいね」
「かしこまりました」
馬車が止まったのはそれから5分後のことだった。聖女様の膀胱は見るからに限界にきている。おそらくは簡単に立ち上がれないぐらいな状態になっているはずだ。すでにプルプル状態を通り越して、音楽を聴きながら体を揺らすがごとく上半身を八の字に揺らし始めており、脂汗はポタポタと滴り落ちている。
「聖女様、準備が整いました。私が幕の中に入りますので続いてもらえますか?」
「わ、わかったわ。で、ではタカシ様、よろしくお願いいたします」
最後の力を振り絞って立ち上がってみせた聖女様。やはりゴールが見えていると人間信じられないパワーを生み出すものだ。今までのデンプシーロールばりの揺れがピタっとその動きを止め、あれ程出ていた脂汗もピタっと引き潮の如く引いてしまっている。しかし、そのタイムリミットが残り僅かであることは明白。次の波が最後、ビッグウェーブが来る。僕がサーファーだったら間違いなくテイクオフの準備を整えていることだろう。
「それではソフィアさん、お手をお借りします」
僕はスキルで透明化するとゆっくり聖女様と共に馬車を降りた。
「ちょ、ちょっと、お花を摘みに行こうかしら!」
ゴリズがトイレアピールをしながら幕を開けて入っていく。もちろん僕と聖女様も続いて入るのでゆっくりと入っていく。気を使って周囲の軍人さん達は目を背けているようだ。ゴリズ、トイレを我慢できなかった女として、しばらくは軍関係者の間で噂になることであろう。
「タ、タカシ様、も、もう限界のようです。絶対に見ないでくださいね」
「も、もちろんです。では、ゴリズと一緒に透明になっておりますね」
「い、いえ、リ、リズは私の後ろに立っていてもらえますか?」
「かしこまりました。その方が良いと思われます」
ゴリズが下等生物を見下すような目線を向けてくる。小癪なことをする。しかしながら逆に好都合だ。スキルエレメントを甘く見てもらっては困る。本来ならば『水人』によるウォシュレット機能から『風人』による温風機能までもお試しいただきたいところなのだ。
「では、気になるでしょうから僕は透明になっていますね。終わられましたら声をお掛けください」
「聖女様、私がしっかりガードしておりますので、ごゆっくり用をお足しください」
「も、もう、ダメっ……」
聖女様は、急いでパンツをおろすとその場にしゃがみこんだ。下っ腹はいまだかつてないほどにパンパン。座ると同時にその聖水は溢れだした。もう音など気にしてられない程にジョバジョバと放水される。
「ふぅぅ……」
ぶるぶると体を震わせながら、目を細めて恍惚の表情を浮かべる聖女様。まさか、僕が真正面に陣取っているとは思いもしないだろう。
全く、ついイタズラをしたくなってしまう。ギリギリバレないラインを攻めて帰還を果たそう。僕はイタズラな風になるのだ。とどまることを知らない聖水が溢れでる泉にそっと息を吹きかけた。
「ひぃやぁ!!」
赤面の表情を浮かべながらも自ら生れ出ずる止まらない泉を前にしては身動きの取れない聖女様。そう、彼女はただ耐えるしかない。
「ど、どうされました! 聖女様」
「い、いえ、風が吹いていたようでして」
「幕で囲われたこの場所で風ですか?」
「お、おいっ! 変態! お前は今どこにいるのだ!」
僕は反対側にさっと移動して返事をするだけでいい。100%バレようがない。
「もう終わられたのですね。では姿を現します」
「い、いえ! ま、まだです! まだダメです! まだダメー!」
知ってる。そんなすぐに終わらないほどにダムは決壊しているのだからね。とはいえ、栄枯盛衰その勢いもかなり落ち着いてきた。繁栄し過ぎた街はいずれ滅びるのが定石。泉からはちょろちょろと終わりの兆しを示している。ここらで終了ということだろう。
ふぅ、充分に楽しませていただいた。良いものを見せて頂いたし、そろそろ僕も真面目に仕事に戻ろうか……。
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