第17章 5話
馬車は公爵派の軍が周りを固めるようにして進んでいく。この辺りは草原が続いているようで景色はとてものどかな雰囲気だ。お茶でも飲もうかな。
「ソフィアさんはお茶は飲まれますか?」
「紅茶ですか?」
「いえ、緑茶という飲物になります。茶葉は同じものだとは思いますが、緑茶は初めてになりますか?」
「はい。どのような味なのでしょう。とても気になります」
「少し渋みがあってまろやかな味わいですよ。ゴリズさんも飲みますか?」
「私の名前はリズだ! お前わざと間違えているだろう? とりあえず、聖女様がお飲みになる前に一口いただこう」
どうやら毒味を兼ねているらしい。全く失礼な奴だ。まぁしょうがない、魔法瓶に入った氷で冷やしたお茶を御者をしているゴリズに渡してあげた。
「そのまま口をつけて飲めるよ。飲まない時は蓋をしておいて」
「わかった。こ、これは! 冷たくて、美味しい……」
「で、では、私も頂いてよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
若干食い気味に魔法瓶をとられてしまった。どうやら興味津々なご様子の聖女様。
「まぁ、とても深い味わいなのですね。紅茶と違ってストレートで飲んでも甘味がいらない感じでしょうか。お茶自体にほのかな甘味を感じますね」
「気に入って頂けたようでよかったです。おかわりもありますから好きなだけ飲んでくださいね」
まだ公爵領までは少し時間がかかるようだったので、お茶だけでなく甘味も用意することにしたのだが、和菓子は食べたことが無かったようでこちらも喜んでもらえた。ちなみに出した和菓子は、みたらし団子とお饅頭だ。一応、ゴリズが片手でも食べられるように気を使ってあげたのだ。本当感謝してもらいたい。
「それにしても、この容れ物は魔法のアイテムなのでしょうか。先程から中の氷が全然溶けておりません」
「それは魔法瓶といって、中身の温度を保たせる容器なんだよ。便利でしょ。温かい物でも保たせることができるんだよ」
「まぁ、魔族領には素敵な魔法アイテムがあるのですね」
「ま、魔法とは違うんだけど、まぁ不思議なアイテムだよね。よかったら、それ差し上げますね」
「本当ですか! とっても嬉しいです。ゴキュゴキュ」
ガブ飲みしている聖女様を見てゴリズが心配をしている。
「聖女様、あまり茶を飲み過ぎますと……」
「そ、そうね。で、でも、まだ大丈夫よ」
それから暫くして……
なんだか、ソフィアさんがそわそわしている。なんなら、もじもじしているご様子。たまに内ももに力が入っているようなもじつきようだ。馬車の揺れがまた厳しい戦いを強いられているように思える。これは明らかに膀胱と戦っておられるな。
「あの、ソフィアさん」
「ふ、ふぁい!」
「そろそろトイレ休憩にしましょう」
「し、しかしですね、周りに大勢の公爵軍のみなさんがいらっしゃってですね……」
「そこは、ゴリズがおしっこをする方向で話を進めましょう」
「ちょっと待てっ! 何で私が!」
「他に代役がいるとでも思うのか? 僕なら馬車の陰でこそっとすますことも可能だ。軍の人たちも見ないでいてくれるだろう。しかし、聖女様のおしっこは違う! 確実に見たいはずだ! 視線が容赦なく集まる。見てない振りをしても、つい横目で追ってしまうだろう」
「何を熱弁しているのかわからんが、言いたいことはわかった。それでどうすのだ」
「入れ替わり作戦だ。まず、ゴリズが『わ、私、おしっこ我慢できませんっ!』って大きな声で馬車を止めることから始まる。次に……」
「その掛け声はいらんだろ。やらんぞ!」
「次に、馬車の後部に簡易的に柱を立て幕で囲う。これで簡易トイレの完成だ」
「そ、それだけですか!? タカシさんは馬車から離れていてくださいね」
「ソフィアさん、残念だけどそういう訳にはいかないんだ。このプランには入れ替わりが必要なんだ。あくまでも中にはゴリズが一人で入っているように見せるが、実際にはバレないように聖女様も一緒に入ってもらいます。そして外からは聖女様と僕は馬車にいると思わせなければならない」
「ど、どうするのですか?」
「僕のスキルで透明化スキルというのがある。僕と手を繋いでいる間は姿は誰からも見えないんだ」
「お、おかしいだろう! つまり聖女様が、そ、その、用を足している間、お前と手を繋いでいないとならないということになるではないか」
「いや、幕の中に入ってしまえば別に手を繋いでいなくても大丈夫でしょ。外から見えないんだから」
「あっ、そ、そうか。し、しかし、幕の中に私とお前がいる中で聖女様は用を足さねばならないというのか!?」
「気になるというなら、僕とゴリズは透明化しているけど……」
「と、透明化しても丸見えですよね!?」
残念ながら聖女様に選択肢はないだろう。もう膀胱が限界に近いのは足の震えからも明白。聖女様の聖水を真正面から眺めることもやぶさかではない。
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