第17章 4話
翌朝は天気も良く、素晴らしい捕虜交換日和だった。交換方法については両側から馬車でゆっくりと進み、交差するところで御者が入れ替わるとのことだそうだ。ちなみに聖女様の乗っている馬車には僕とピースケも乗っていて、御者はタカモトさんがしている。
そして予想通りというか、向こうの御者はゴリズである。まるで僕を虫でも見るような冷たい目で見てくる失礼な奴だ。とはいえ、自分が100%悪いのは自覚しているので強く出れない。馬車にはカシュー王子を乗せており、その姿を確認したピースケも嬉しそうだ。
「それではタカシ殿、健闘を祈るでござるよ」
「はい。タカモトさんやカイトさんの後方支援を期待しています」
隣に停まった馬車にはカシュー王子が座っており、ピースケに向けて手を振っていた。
「カシュー兄さん、ご無事で何よりっす。心配してたっすよ」
「久し振りだねピース。ここにいるってことは条件をクリアして戻ってきたんだね」
「そうっすね紹介するっす! 自分のマスターっすよ」
「は、はじめましてカシュー王子。タカシと申します」
「ピースと共に戦ってくれてありがとう。リズさんからもいろいろと噂は伺っているよ。大活躍だったみたいだね」
ふと、ゴリズを見ると目線を逸らしている。おい、何話しやがった!
「え、えぇ。だ、大活躍ですか?」
「なんでもとても面白い魔法を使うと聞いているよ。詳細は教えてくれなかったんだけど、リズさんも聖女様もあっさりその魔法で捕縛されたとか。戻って来たらどんな魔法か教えてくれるかな。こう見えて魔法は得意な方なんだ」
あ、あぶない。ゴリズのくせに詳細は伝えていなかったようだ。一応、これから内戦の助っ人をするため最低限の礼儀は持っていたようだ。
「私などが恐れ多いですが、機会がありましたら是非お話させていただきます」
「楽しみにしているよ。それから、人族の内戦は思っている以上に民衆が苦しんでいるようなんだ。出来る限り力になってもらいたい。よろしく頼むね」
「勿論です。いち早く内戦を終結させることが私の役割でございます」
自分を長いこと捕虜にしていた人族の民衆を思いやるあたり、かなりできた王子なのだろう。政治的なことと民衆を分けて考えることのできる人のようだ。さすが王族。僕なら何かしら理由をつけて、つい城ごと火弾してしまいそうだ。いくら知らない世界とはいえ、それがあまりにも人道的ではないというのは理解している。まぁとにかく政治とかややこしいから、なるべく面倒を起こさないように気をつけよう。
「マスター、それじゃ無理せずに頑張るっすよ」
「うん、ピースケも家族サービスしっかりね」
ピースケはカシュー王子と共に帰宅することになっている。ここからはゴリズと聖女様と公爵領へと向かう道のりとなる。といっても数百メートル先には公爵派の軍が控えている。さすがに王様派がこのタイミングでここに突っ込んでくることはないだろう。公爵領まで安全な旅路をのんびり過ごそうと思う。
「タカシ様が公爵領のために動いて頂けるのはとても心強く思っています」
「どこまで出来るかわからないけど、出来る範囲で頑張ってみるね。ソフィアさんも久し振りの公爵領になるのかな。聖女様の姿を見たら多くの人々が勇気づけられるでしょう」
「聖女様、お言葉ではございますが、その男は目的のために手段を選ばない非道野郎です。あまりその者と近い距離におりますと聖女様にも良くない噂が立ちかねません」
「リズ、そんなことを言ってはいけませんよ。タカシ様は人族と魔族の間を取り持ってくださるために公爵領にお越しいただくのです。きっと素晴らしいアイデアでこの内戦を早期終結して下さるに違いありません」
「聖女様はその男を信頼し過ぎです。そ、その男は、私のみならず聖女様にも卑猥な魔法を使ったのですよ!」
「そもそもあの時点で、タカシ様は私たちのことを知らなかったと聞いております。なんでも別の世界からこちらの世界に渡ってきたばかりだったとか。それにあの場は戦場でもあったのです。私達もその覚悟を持ってあの場所へ向かったはずですよ」
「し、しかしですね!」
魔王様か宰相様だろうか、フォローがとても上手い。何をしても上手に隠してくれそうだ。これが王族のコネクションか。
「リズ、いい加減にしなさい。私はここしばらく魔族の方々とお話させていただく中ではっきりと分かったことがあります。国王派が動いたことではありますが、この度の戦争の責任は私たち人族側にあるのは明白です。それを知りながら手を差し伸べてくださっていることをよく考えなさい」
何故だか聖女様の印象がとても良い。王族のコネクション最高。裏を表と言わせてしまう力強さがある。王族関係者として適度に潜入頑張ろうと思う。
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