第17章 1話
「注文いいかしら?」
「あっ、はい。お待たせいたしました」
「んーっ、悩むわね。とりあえず、ラム肉のルンダンとアヤムペルチッとムルタバ。それと、カンクンブラチャンにイカンバカールとクエ。あとはそうね、ナシゴレンをアンチョビのフライに変更で卵は絶対に半熟にしてちょうだい。それからチャパティとプラナカン風のフィッシュヘッドカリーと南インド風のラッサムカリーを」
英語はわからないので、注文はティア先生にお任せだ。メニュー選びに間違いはないだろう。何を注文しているのかわからないけど、僕はとりあえずニコニコして待っているだけだ。
「お客さん、二人ですよね? 後からいっぱい人が来るのでしょうか?」
「今日はデートなの。もちろん、二人きりよ。ところで、さっきのだけど各5人前持ってきてくれるかしら。飲み物はテー・タリッをお願いするわ」
「はぁ……はぁ!? えっ、あっ、……シェ、シェフー!!」
慌てて厨房へ駆け込む店員さん。きっと何か凄い注文をしたのだろうな。
「店員さん、慌ててたみたいだけど何を頼んだの? ナシゴレンとカレーはなんとなく聞こえたんだけどさ」
「前菜とかオードブルみたいなものですわ。それにしてもクレジットカードの使える店でよかったですわ。てんとう虫さんおすすめの3つ星レストランですのよ」
「そうだね。みんなには悪いけどバカンスの途中だったし、少しぐらい贅沢してもいいよね。ティア、今頼んだのと同じ物をみんなのお土産用に包んでもらってくれないか?」
「そうですわね。そこの方、ちょっといいかしら? 今頼んだ料理を10人前お土産に持って帰りたいの。私達が食べ終わる頃には用意しておいてくれるかしら」
「あ、あの、私どもは配達を行ってはいないのですが10人前もお持ち帰り大丈夫なのでしょうか?」
「問題ないわ。あと、勘違いしてたら困るから念のため繰り返すけど、お土産は私が頼んだ5人前の料理を10人前用意するのよ」
「ふぉっ! 50人前!? ……シェ、シェフー!!」
「あの店員さんもかなり慌ててたみたいだけど大丈夫なの?」
「外国の方ってオーバーリアクションなのよね。食事ぐらい静かに頂きたいですわ」
ティア先生が何かやったのは確実だろう。あまり迷惑を掛けていなければいいのだけど、怒られているような様子でもないのでとりあえず放っておく。
「タカシ様、スマホに連絡が来ているのではないかしら?」
「おぉ、本当だ。レイコさんからだね。えーっと、ピースケからの伝言みたいだけど……」
「どんな内容ですの?」
「『大阪ダンジョン』の案内人のことみたいなんどけど、僕が戻ったら殺す? ことになったらしいんだ。えっと、案内人は死んでも幽霊になるから大丈夫……。ん?」
「幽霊になったら大丈夫じゃないわよね。レイコったら、ピースケ様の伝言を間違って伝えてるのかしら」
「ちょっと意味がわからないけど、戻れば理由もわかるだろう。とりあえず緊急な話ではないことはわかったよ」
その後、大量の美味しい料理に舌鼓を打ち、お店を出ようとしたところ、お土産の準備に時間が掛かるとのことで、クアラルンプールの街並みを散策しながら時間を潰していた。
宗教の国ならではといった建物やモスクが多く、一方で近代的な高層ビルも建ち並び、その調和が進んでおり街全体に勢いが感じられる。
「これからマレーシアはダンジョンアイテムと軍事力アップで一気に先進国の仲間入りを果たすのだろうね。周辺国やヨーロッパの国々とどのようにやり合うのか腕の見せ所かな」
「アイシャは大丈夫かしら?」
「とりあえず1ヶ月ぐらい乗り切れば安泰じゃないかな。1年も経たずに『千葉ダンジョン』に次ぐ規模のダンジョンになってるかもしれないよ」
ダンジョンの数はまだ増えていくだろうし、中東やヨーロッパに新しいダンジョンが出来た時にこの『ペナンダンジョン』の立地は活きてくるはずだ。
「アイシャに高い恩を売れましたわ。たまに遊びに行ってポイントでマレーシア料理を振る舞ってもらうのもいいわ」
「そうだね。それくらいならいいんじゃない。アイシャちゃんも喜ぶと思うよ」
「マレーシア料理はスパイシーでとても気に入りましたわ。海外に支社を出すのもいいわね」
どうやら菜の花ホールディングスの世界進出が動き始めそうだ。
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