第16章 14話
突然現れた水竜に驚いている様子の『ブラックシャーク』。まさか自分より上の強者がこのダンジョンにいるなんて想像すらしてなかったのだろう。見た目にも分かりやすく固まっている。
そんな動かない標的にティア先生は、あらっ楽で助かるわと云わんばかりに構わず尻尾で殴りつける。まるで容赦がない。ホント殺しちゃダメだからね。
もちろん、『ブラックシャーク』がそれを避けることなど出来ない。そもそものスピードが違い過ぎるのだから。
『ブラックシャーク』は海面に叩きつけられて一瞬気を失ったものの、すぐに何とか海中へと逃げこもうと試みた。自分の力を最大限に活かすのならば水中。海の中に入ってしまえば、もう少し何かしら対処出来るかもしれない。それは一縷の望みであった。
しかしながら体が動かない。いや、固められている。信じられないことに、自分を中心として海が凍らされているようなのだ。恐る恐る空を見上げると、そこには圧倒的な暴力の権化、ドラゴンが睨みを効かせていた。
「強気な態度をとる割りに大したことないのね。策もなく、状況もわからずに喧嘩を売るなんて本当にかわいいわ」
こ、殺される……。このドラゴンの目は本気だ。ちょっと調子に乗っただけなのに冗談の通じないマスターらしい。同種族の先輩は最初が肝心だからガツンといっとけって話をしてたのに明らかに様子がおかしい。我々は選ばれた種族のはずなのに……これでは話が違う。ドラゴンがいるなんて聞いてない。
「……と言ってますが、どうしましょうか?」
凍った海水ごと砂浜に連れてこられた『ブラックシャーク』。頑張ってお腹を見せようと必死だ。今更ながら敵意が無いことを示したいのだろう。残念ながら凍ってるから出来てないんだけど。
「冗談ねぇ。自分よりも強いモンスターがいるとわかれば、反抗的な態度は改まるとは思うんだけど、このまま数を増やしていいものかは悩むね」
「ダンジョンモンスターらしからぬ思考というか行動というか、何というか態度が舐めてますわ。躾が必要じゃないかしら」
水竜からヒト型に戻ったティアも疑問を持っているようだ。
「通常のモンスターと違ってマスターに対する忠誠度が明らかに低いよね。躾かぁ、そうだ! リノちゃんに見てもらおうかな。リノちゃん見てる? ちょっと二階層に来てー」
ダンジョンカメラに向かって会議室にいるであろうリノちゃんに向かって手を振りながら声を掛けてみる。み、見てるよね?
「タカシさん、何でリノさんを呼ばれたんですか? リノさん、海の生物に全く興味なさそうでしたけど」
「それはね、リノちゃんは特殊な性癖……じゃなくて、モンスターをテイムする能力があるかもしれないんだよね」
「えっ、それってスキルなんですか?」
「スキルになる手前なのかな? スキルとして昇華はしてないみたいなんだけど、近い能力なんじゃないかなと思ってるんだ」
「すごいですね。まさか、『ブラックシャーク』さんをテイムするのですか?」
「どうだろう。そもそもリノちゃんの能力が本物かどうかから確認してみないとならないからね。あと、本人のやる気かな。海洋生物に対する興味が皆無だからね。まぁ、いろいろな意味で実験かな」
おっ、どうやらリノちゃんが来てくれたようだ。その顔はいつも通りやる気がない。
「タカシ、私は暇じゃないんだ。呼んだからには、次の階層は『草原(朝焼け)』にしてもらうからな」
「その辺りはアイシャちゃんと相談してくれるかな?」
「それで、一体何のようだ」
「あそこにいる『ブラックシャーク』をモフってもらいたい」
「断る!」
「おそらくだけど、リノちゃんにはモンスターをテイムする能力があるかもしれないんだ。もしも能力が開花したら、モフり力がアップするかもしれない」
「よし、やるぞ! どうすればいい?」
「とりあえず、今までやってたように好きなようにやってみてよ。相手の気持ちになって、喜んでもらう? 気持ちよくなってもらう感じ?」
「あのサメをか?」
「うん。気持ちを込めて触ってみてよ」
「わかった」
リノちゃんは身動きの取れない砂浜に打ち上がった『ブラックシャーク』に近づくと、おもむろに触診をしていった。どこが弱点? というかポイントを探っているのだろう。
かなり集中して触診をしているようだ。
自分の性癖に真っ直ぐな変態だ。
しばらく観察していると不思議なことにリノちゃんの手が少し光り始めたような気がする……。
「タカシさん、光ってますよ!?」
「あっ、やっぱ光ってるよね」
「えぇ、光ってますわ」
なんだかいけそうな気がする。というか、『ブラックシャーク』どうなっちゃうのだろうか。
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